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Celluloid Summer
†††




「若いね。」


女子高生の恋人。
今、存在すれば、確かにそうなる。


「…同い年…だったんです…」


写真に傷が付いてないか、愛しそうに確認すると咲遊音はゆっくりロケットを閉じた。

彼女が死んだと理解してから、まだ数日。

その間、ロケットが開かれることはなかった。

春日とのやりとりで、乗り越えたと思っていたものが咲遊音を突き動かす。


「…亡くなったのか?」

「…十年前に。」

「…悪いことを聞いた。」

「いえ。気にしないでください。…俺はまだ…実感がなくて…」


嘘だ。本当はわかってる。

彼女がもうどこにもいないこと。

時に衝動的に後を追いたくなる。

そうしないのは、生きると決めたから。

淡々と言葉を紡ぐ絋羽だから、あまり気負わずに口にできた気がする。
咲遊音は絋羽に一礼すると、エレベーターに乗り込んだ。

扉の向こう、絋羽の表情は掛け直した眼鏡でわからなかった。






表示サインが二階にあがると、見送っていた絋羽が口を開いた。


「どう思う?紅羽。」


存在を感じさせなかった紅羽が、絋羽の言葉に頷く。


「同一人物だ。『あの人』とは咲遊音のことかな?」


303号室の少女。

十年前に死んだ、咲遊音の恋人。

奏は今も、そこに居る。


「教えるのか…?」


気遣うような絋羽の声。


「…教えない。俺は神様じゃない。」


会わせても、救いになるかはわからない。
むしろ、進もうとする咲遊音の邪魔になる可能性が高い。
どちらも救えるという保障は神様にしか出来ない。

だから、教えない。
逢わせない。

たとえ。
罪悪感に身を焼いても。

そう考えて紅羽はくすり、と笑う。

気持ちで身体を焼くなんて変な言い回しだ。
心で焼けるのは心だけ。
傷ついた心を癒せるのが、心だけなのと同じように。

俯く紅羽を絋羽だけがそっと見つめた。





部屋に帰った咲遊音は、リビングのローソファーで那智が寝息を立てているのを見て、くすりと笑った。

時計を見ると、すでに22時を回っている。

今日は比較的、忙しかったから、帰ってきて風呂に入ってすぐ、睡魔に負けたのだろう。

そうでなくとも、この所、那智は疲れているように見える。すでに瑞希から二日間の休養を言い渡されていた。


乾きかけた黒髪に咲遊音の指先が触れる。


奏を亡くしたことを受けとめることが出来たのは、那智のおかげだ。


那智に向かう思いは、奏に対するものとは違う。

かといって、他の同僚に向ける思いとも違う。

ましてや、家族への思いとも違う。









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