Celluloid Summer ††† それは無駄な言葉かもしれない。 奏を亡くした事自体が、咲遊音の心を圧迫しているなら。 それでも、那智は伝えたかった。 彼女の最期を。 幸せそうに、少し淋しそうに、微笑えんで大切な想いを語った彼女を。 「…好きな気持ちは…なくさない…って…自殺じゃないよ、咲遊音…。」 色鮮やかな向日葵。 そのもののように輝いていた少女。 「咲遊音は…まだ…止まったままの時間に、彼女を置いとくの…?」 どう言っていいのかわからない。 けれど、今の咲遊音の姿は奏が望んでいるものと違うような気がした。 あれ程、未来の希望を語れる彼女に、囚われ続ける咲遊音はどう映るのか。 那智はじっと咲遊音の様子を伺う。 咲遊音の。 薄い色彩の瞳から。 澄んだ水滴が、いくつも、いくつも、転がり、落ちて、落ちて。 ゆっくりとしばたいた瞳は那智を映して、くしゃりと歪んだ。 「…っ…ふ…」 短く吐き出された息。 肩が震え。 細く、長く、嗚咽する声が、明け方まで那智の部屋に満ちた。 残酷な現実を、十年の歳月を経て、ようやく受けとめることができた咲遊音。 奏を亡くしたのは、まだ傷つきやすい十代半ばの頃だったから、その死を受け止めきれなかったのかもしれない。 動き始めた時間が、咲遊音を変えていく。 愛したことが消えるわけじゃない。 愛したことが間違っていたわけじゃない。 そう、信じられるようになるまで。 「咲遊音ちゃん、咲遊音ちゃん、相談に乗ってほしいの。」 店が終わる頃、春日が咲遊音に話し掛けた。 「俺…?内容にもよるけど、俺でいいの?」 「んー…咲遊音ちゃんが適任だと思うのね?」 「いいよ、わかった。じゃ、お店閉めたら…休憩室でね。」 いつもの日常は変わりなく過ぎていく。 毎日が同じように、けれど少しづつ変わったことで、日々を試しながら。 毎日と少し違う、春日の相談ごと。 首を傾げながら、咲遊音は残り少ない業務時間を努めた。 仕事を終えて、一階、休憩室に咲遊音は春日を連れて入った。 「最近、咲遊音ちゃん、元気ないよね。」 「…ん、まあ…ね。」 「咲遊音ちゃんも悩み事あるの?春日で良かったら、聞こうか?」 ほわん、と心を軽くする春日の笑い方。 自分が悩んでいるらしいのに、世間話からつい相手を心配してしまう春日は、見習わなきゃいけない気がする。 [BACK][NEXT] [戻る] |