Celluloid Summer
†††
ACT.5
暑い日だった。
学校帰りに子犬を拾う。
白くて、小さくて、可愛い子犬。薄汚れた毛並み。捨て犬。
緑の街路樹。
夕方が近づいていた。
こめかみから汗が流れて、首筋を伝う。
背中で揺れるランドセルすら、熱が籠もって熱い。
足早に歩道を走り、渡る直前に変わった信号に、わずかに苛立って睨み付けて。腕の中の子犬を抱きかかえ直した。手のひらが汗ばんでいる。
『……よ。………………。…学校帰り?』
暑さを吹き飛ばすような、涼しい声。
突然、話し掛けられて困惑気味に頷く。
『私も………。君は?どうして………なの?』
笑った少女。よく知ってる花に似ている。
居残りだったと言ってから、不機嫌が加速する。
『勉強、キライ!』
甲高い声。
声もキライ。クラスの何人かはもう、声変わりが始まってるのに。
隣に立つ少女。
長い髪が風になびく。
『私は好きよ。私、海外……勉強したいの。』
夕方を迎え急ぐ車。
響くクラクション。
綺麗な横顔。
『………君にも、好きな人が出来たら………かな?』
『好きな人がいるの?』
『うん。』
今、喧嘩しちゃってるの。
私が外国に行きたいって行ったから。
引き止めようとするの。
離れたくないのは、私だって同じよ。
でも、どうしても。
叶えたい夢があるから。
咲遊音が怒っても、泣いても、私は行くわ。
謝りたいけど、きっと許してはくれないね。
でも、好きな気持ちはきっと、なくさないわ。
車の騒音がひどい。
信号が変わりかけたのか、スピードをあげて走る車の群れ。
少女の体が傾く。
「っ…那智…っ!!」
揺さ振られて、何度も名前を呼ばれ、ひく、と痙攣して目を覚ますと那智はのろのろと体を起こす。
汗でぐっしょりと湿ったパジャマとシーツ。
夢だとわかっていても、衝撃は、なかなか通り過ぎない。
がんがんと、割れ鐘のような頭痛と目眩。
吐き気すらしそうな中で、自分を起こした咲遊音を見上げる。
「大丈夫?電気ついてないから、どうしたのかと思った…」
ほっ、と息をつきながら、咲遊音は那智に水のペットボトルを手渡した。
「ごめん…咲遊音…。俺、やっぱり、あの子、知ってる。」
絞りだした那智の声に、空気が凍っていくのを感じながら、那智は咲遊音が完全に心を閉ざさないうちに、言葉を紡いだ。
「あの子、お前のこと、言ってた。叶えたい夢があるって…咲遊音のこと、好きだって…」
確認するように、彼女の言葉をなぞる。
「自殺じゃないよ!外国に行きたいって!勉強したいって!言ってた!!」
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