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Celluloid Summer
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瑞希とタクミは知っていて咲遊音を預かったんだと言う。


治る見込みがあるのか。

那智は自室で考えた。


瑞希は、咲遊音に彼女の死と向き合わせる方法はいくつかある、と言った。


『奏が死んだ時…アイツがおかしいことに、皆、気が付いた。だけどアイツを不憫に思えばこそ、誰もそれを突き付けられなかった。俺は…知らなかったんだ…奏が死んだことを。』

『いくつか手は有る。新聞記事や写真も残ってる。必要なら人形を使った事故の再現だって可能だ。』

『だけどな、俺は思うんだ。あれ程、愛した女の死を突き付けて、咲遊音がこの世界で生きていくことが、本当に幸せに繋がるのか…正気に戻して、その痛みを与えることは正しいのか』

『咲遊音に生きて欲しいのは…周りのエゴだ…アイツはそれに応えてる。…心を病んでも生きてる。その上…まだ更に辛い現実を受けとめろと要求するのは…残酷じゃないのか…』


瑞希の言葉がぐるぐると回る。

ベッドに仰向けたまま、那智は何度もその言葉を考えた。

瑞希は、咲遊音はおかしいが、おかしくない、と言った。

この世で唯一、全てをかけて愛せる者を亡くしたのなら。心を壊して当たり前だ、と。




それ程に咲遊音は彼女を愛していた。

その事実に、那智は咲遊音を特別に想っている自分に気付く。

自分が彼女の死を突き付けるのは、非道く醜い気がした。


それでも、那智は奏と最期の言葉を交わした。

咲遊音に、伝えることはなかったか、記憶の糸を手繰る。

奏は、当時、自殺ではないかという意見があったらしい。

咲遊音と喧嘩中で、カバンから何度も謝罪を書いた手紙が、発見された為、だという。

留学したがっていた奏は、そのことで咲遊音と衝突し悩んでいたらしいが、家族の弁護もあって、事故に落ち着いたという話だ。



自分は何か、咲遊音のことを聞かなかっただろうか。


埋もれた記憶は欠片すらも手繰り寄せることができずに、那智は歯噛みする。


「…そうだ…」


思い出せないなら、『見れば』いい。



那智は震える指で、部屋の照明スイッチに触れた。






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