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Celluloid Summer
†††




小学校の居残りをした帰りだった。

那智はランドセルを揺らして、信号の近くにいた。

車の多い通りで、かなり長い間信号の変わる様子がなかった。


遅い時間に小学生が一人で居るのを不審に思ったのか話し掛けてきた女子高生がいた。

それが、写真の少女、葛野奏(クズノ カナデ)だ。


かわした会話は那智には思い出せなかった。
奏は那智の抱く子犬の頭を二、三度撫でると、信号を見た。


そして目の前で悲劇は起きる。


ふらり、と傾いだ体。
流れる長い髪。
目の前を横切る、学生カバン。

ブレーキの音とクラクションがけたたましく鳴って、奏の細い体は空中に投げ出された。

立ち尽くす那智の頬に、一滴の血液が飛んできて。


少女はそれきり、動かなかった。


恐くなった那智は、周りの喧騒に我に返ると、混乱した信号を渡って走った。

すれ違った同じ学校らしい高校生が、彼女の名前を叫んだ。



信号を渡りきって振り向いた那智の目に、恋人らしい高校生が彼女に取り縋り、抱き抱えるのが見えた。


背を向けて家に走る那智の耳に、この世のモノとは思えない程の悲痛な慟哭が届いた。








「…あれが…あの駆け寄ってきた人が…咲遊音だった……?」


覚えているのは制服の後ろ姿。

今よりも短い茶髪の色は、確かに咲遊音と同じ色。



咲遊音は。

表情を無くして、止まっていた。

人形のように無表情だ。


「…咲遊音…?」

「………………。」


ひら、と目の前で那智が手を振るも、咲遊音は反応しない。

じわり、と墨のような罪悪感が那智に広がる。

だが、あまりに。不自然な程にその時間が長い。

あきらかにおかしい。


「…?……咲遊…」


那智が咲遊音に触れようと手を差し伸べると、咲遊音の瞳がようやく瞬いた。


「……あ……?」


何度かしばたいて、テーブルの向かいから乗り出していた体を起こす。


「…あれ…えーと………何してたんだっけ…?」


こり、と頭を掻いて、咲遊音は那智を見た。

そして。

咲遊音は向日葵のように笑って言った。


「あぁ!朝ご飯の用意してたんだったね!ごめん、立ったまんま、寝ちゃったみたい。」


それは。拒絶。

那智の背筋を冷たい汗が滑り落ちた。






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あきゅろす。
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