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Celluloid Summer
†††




くすくすと笑う二人に、咲遊音は、はあ、と感心した声をあげる。


「仲良いんですね、あの二人。」

「お前な。」

「冗談ス。付き合ってんですね。」

「ま、そゆこと。」


仲良さげにエレベーターに乗り込む二人を見送って、咲遊音も幸せそうな顔をする。

それから、知らず胸元のロケットに触れた。


「…咲遊音…。…奏(カナデ)は……」


瑞希の言葉に、咲遊音は振り返ると笑った。


「元気ですよ。瑞希さんに逢いたがってた。」


向日葵を連想させる笑顔に瑞希は、そうか、と頷いただけでその会話は打ち切られた。


物言いたげなタクミの視線は、瑞希に遮られて咲遊音に届くことはなかった。








その日の夜。
明るい部屋のベッドの上で咲遊音は寝返りを打つ。

脳裏に、笑いすぎて涙を拭う那智の姿が甦っていた。

あれから、離れない。
その笑顔が。


「…俺の浮気者……。」


独白めいた呟きが部屋に拡散して。

ロケットをそっと開くと、髪の長い少女が咲遊音に笑いかけた。

留学している恋人は、高校を卒業して7年。いまだ日本に帰ってこない。
電話はするが、顔は見えないし、逢えない辛さが咲遊音を苛む。

だがそれでも。彼女の夢の為なら我慢も出来るし、深夜の電話を待つことも出来る。

日付が変わる頃に、咲遊音の携帯がバラードを鳴らした。


「はい。奏?」


遠い異国からの愛しい人の声に、咲遊音は幸せそうな笑みを浮かべた。








鞆親にピアノを教わりながら、春日は溜め息を吐く。

悩んだ顔をしていた。


「…春日…?」


心配げに声をかけた鞆親に、春日はふるふると首を振る。


「大丈夫。なんでもないの…。」


言いながら今にも泣きそうで。
いつも明るくて元気がいい春日が、元気がない時。

それは大概、弟絡みで。

家族の立ち入れないことは鞆親にもどうすることも出来ずに、後ろから春日を抱き締める。


「チカちゃん…」


家庭の事情にまで深くは入れないけど。


「傍に、いるから。」


鞆親の言葉に、春日はようやく微笑した。







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あきゅろす。
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