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Celluloid Summer
†††


プロローグ

街角にアンティークな喫茶店がある。
店名は『Black Cafe』
馴染み客には『BC』との略称で親しまれるこの喫茶店は、喧騒の外れにひっそりと佇んでいた。

裏手のマンションは従業員専用の寮で、二人一室が義務付けられている。


近場には公園もあり『BC』でサンドイッチなどをテイクアウトしてのんびり過ごすのもお薦めだ。



そんな『BC』専用寮に、新たな従業員が加わる。

名前を、如月 咲遊音(きさらぎ さゆね)二十代半ばの青年だ。


彼が同室者と出会った時、彼らの運命が動き始めた。





「那智君、那智君。突然で悪いんだけど、同室者が決まったよ。」


『BC』のマスター、黒沢 瑞希(くろさわ みずき)に話し掛けられて勤務中の青年が手を止める。


「構いませんが?」


黒髪をさらりと揺らして、那智と呼ばれた青年は無表情を変えずに応えた。

細身の体に黒の制服を纏い、彼はテーブルを拭く作業を黙々と再開した。
彼は、木島 那智(きじま なち)二十歳になったばかりの青年だ。


「興味ない?同室者。」


人の悪い笑みを浮かべた中年親父を一瞥すると、淡々と那智は答える。


「無いですね。どうせ今まで通り一月ももたない。」


そっけない那智の態度に、瑞希は笑みを深める。


「賭ける?もつかもたないか。」


揶揄る様な瑞希の物言いに、那智は顔をあげ、真直ぐに彼を見た。


「随分と、自信がおありなんですね?」


興味を持ったのかと思いきや、那智は窓ガラスに張りつくと、テーブルと同じように、拭き始めた。


「同室者を追い出すのも、いい加減にしてくれよ?…今度のはもちそうなんだから。」

「俺が追い出してる訳じゃありません。向こうが勝手に出ていくんです。」


瑞希の言葉に、これまた当たり前のように淡々と返すと那智は店の奥へと掃除道具を仕舞に入っていった。


「やれやれ。」


今日もアイスドールの笑顔は見えないらしい。

瑞希は那智の背中を見送って、自分も開店準備に取り掛かった。




程なく、店内にはコーヒーの良い薫り、甘い菓子類の薫りが広がり始め。
従業員一同の、慌ただしい一日が始まった。



ここ『BC』は美味しいコーヒーとサンドイッチ、マスター手ずからのケーキにクッキーと、店員のレベルの高さが売りだ。

年令の平均も十代から二十代と年若い。
三十代と言えば、瑞希くらいのもので。

伴う客層は二十代を中心に三十代くらいが多い。


「いらっしゃいませ。」


店が開くと同時に入ってくるのは片山 空近(かたやま すおう)

常連さんも常連さん、毎日、十時開店と同時にカウンターにつき、七時閉店と共に店を出る。

彼は柔らかな髪を背まで伸ばし、緩く括り。常にスーツ姿という、繊細で美人な外見の変り者。

空近を筆頭に、変わった客が多いのもこの『BC』の売りなのかもしれない。


「今日もお薦めで?」


瑞希の問いに、横髪を掻き上げつつ空近は、えぇ、お任せで、と頷いた。






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