壁に耳あり障子に目あり
先輩の運転するバイクの後ろへと座って送られる間、私は先輩にしがみついたまま昨日からの出来事を全て話した

運転中である先輩からの返事は無く、それでも先輩は何度も頷き、はっきりと一言私に『大丈夫だ。』と言ってくれた

何の確信があってそう言えたのかは謎、何一つ解決するどころか悪化し続けているのにどうして『大丈夫だ。』と言ってくれたのだろう

先輩が頼り甲斐のあり信頼出来る存在だとは私が一番分かっている、けれど今の状況を考えるとその言葉は気休めにもなりはしない

「こりゃ酷いな…さっきも言ったが、これは俺に関係無い。」

「じゃあ…アイツ、なんでしょうか。」

自宅まで送られた今、玄関にずっと放置しているバイクを見せると先輩は自分の頭をガシガシと乱暴に掻きながらそう言った

先輩に怨みを持った人間の犯行じゃあ無い、だとするとやっぱり私に怨みを持った人間の犯行となってしまう

そして考えられるのはあの男、怨みを買われた覚えも面識も無いけれど一番犯人に近い人間だ

自分からアイツだろうかと口にした私はそれでも先輩に否定して欲しくて、ギュッとスカートの裾を握り締めてズタボロにされたシートを睨み続ける先輩をチラリと見上げた

しかし先輩からは肯定も否定も無く、唇は硬く閉じられ鋭い瞳の奥に怒りを感じる

これを見た時、私は凄く怒ってい所構わず声を荒げていた

でも一番怒っているのは先輩、何せ元々は先輩が大事にしていたバイクであり、先輩が初めて購入したバイクなのだ

私を信用した上で自分にとっての宝を譲った矢先にこの現状、怒りを通り越して悲しい、だろうか

「決めたぜなまえ、俺はこれから毎日お前の送迎をする。」

「…それは助かりますけど…危ないですよ、もしかしたら刃物を常備しているかも知れません。」

先輩が決めた事、それは私を毎日送迎

そして自分で犯人を捕まえる、これは言わなくても先輩の性格を知っている人間なら誰だって分かる

乗客の中にアイツが隠れているかも知れない電車に乗るよりは先輩の運転するバイクで登下校する方が安全、でも犯人を捜し出そうとているなら止めさせなくてはならない

先輩がもしも怪我を負わされたら私の責任だし、先輩に怪我なんてして欲しく無い

「良いから、俺に任せとけ。俺達の宝を悲惨な姿にした奴を絶対に血祭りにしてやるよ。」

それはそれで問題だなぁと思いつつも、今日初めて先輩がいつもの笑顔を見せてくれたのでなんとなく、大丈夫なのだと納得出来た

先輩は喧嘩に強くそれなりに武術の心得はある、自称四国の鬼と言うくらいだからそんなに簡単に負けはしない

だから私は先輩を信じよう、大丈夫、誰も傷付かずこの一件は無事に終わるものなのだと

「あ、もしもしかすが?あのね、聞いて聞いて!!今日の放課後なんだけどね!!」

先輩が帰宅してから私は両親との夕飯を済ませ、自室までの階段を駆け上がり一番の友人であるかすがへ今日の出来事を全て報告しようと電話をかけた

両親に言わないのは私が原因だと思われるのが嫌だから、バイクの事だってあれだけ私に落ち度があるとの疑いを捨てようとはしなかった二人の事だからアイツの事も私を疑うに違いない

それよりも親身になって話を聞き、協力してくれる友人こそが私の救世主

あまり頼り過ぎると相手へ負担をかけてしまうから限度を考え無きゃならないけれど話しくらいは聞いて欲しい

「うん。だから暫くは親ちゃん先輩と…うん、うん、ありがと。じゃあ、また明日ね。おやすみ。」

彼女との通話は二時間にも及び、お互いに両親から早くお風呂に入れと急かされ始めたのを合図に名残惜しいが電話を終了する事にした

おやすみ、そう言って電話を切ると自室が静寂に包まれ、住み慣れた自宅なのに気味の悪さを感じる

私の自室は二階にありベランダ付き、忍び込もうと思えば出来ない事も無い

ベランダの下にある倉庫に登るのは小学生の私でも出来たし、外に置いたままの自転車は脚立代わりにもなる

倉庫の屋根からベランダへ移動するのはとても簡単

もしも今カーテンを開けた向こうに奴が居たらどうしたら良い?

「…流石に考え過ぎ、か。」

閉じたままのカーテンへ向けて独り言を漏らし、再び階段の下から早くお風呂に行きなさいと母の声が聞こえ携帯電話を枕元に置いた私は階段を駆け降りた

入浴後、大量の不在着信が入っているとは知らずに


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