心を潰して置き去りに
放課後を迎えても小太郎からのメールは来ず、我慢出来なくなった私は彼のバイト先へと訪れた

バイト先と言っても仕事を抜けさせるわけにもいかないから前回同様従業員専用の駐車場へ入り、一番奥に駐車された彼の車の隣で待ちぼうけ

前回私が此処へ訪れた時、彼は休憩中だった

だからもしかすると今回も休憩中に此処へ訪れ、会えるかも知れない

そう期待したのに、彼が車の元にやって来たのは日付の変わった12時10分

私が学校から一度帰宅して、此処へ向かおうと家を出たのは6時過ぎ

つまり私は5時間以上もの間、何もせずにただ彼を待ち続けていた

真冬なだけに外はとても寒く、指先はかじかんで思うように動かない

途中で何度も諦めて帰宅しようかと考え、その度やっぱり彼が来るまで待とうと決めたのはどうしても自分の抱えている不安を解消したいからだ

結果から言うと、私は彼を怒らせ不安が更に膨らんでしまった

「こたろう、ごめんなさい…。」

「一つ聞くけど、それは何に対しての謝罪なの?」

泣きじゃくる私を面倒に思ってか、一度は一人で帰宅しようとした彼は私の身を持ち上げ助手席へ乗せた

そのまま車を私の自宅の方向へ走らせ、車内の空気は最悪な状態

無言が辛くて謝罪をしても彼はこの調子で、普段とは別人のように思えてしまう

私が初めて彼を駐車場で待っていた時、彼は必死に謝罪する私を最終的には許してくれた

きっと今回も私を許してくれる、そんな自惚れを見透かしたように今回の彼は私に対する態度が冷たい

「バイトで疲れてるのに、勝手に来ちゃったし…離婚の事も、勝手に誤解だって決めつけたりしたから…ごめんなさい。でもね、小太郎を信じられないわけじゃあないの。お母さんが違うって否定したから、そう思っちゃっただけで…。」

「謝罪の次は言い訳するなんて凄いね。そんな無神経な事、俺には真似出来そうにないよ。」

「ご、ごめんなさい…。」

許しを得たくて必死になって彼是と頭を働かせているのに、私の言動は全て裏目に出てばかり

やっと落ち着いた涙が再び溢れ、拭おうを袖で触れると腫れた瞼が摩擦で痛む

言い訳のつもりじゃない、とは訂正出来ない

今の彼に何を言っても怒らせるだけだと分かっているし、これ以上彼の口から冷たい台詞を聞きたくない

恥を捨ててすると言った自慰でさえ彼は私にそういった趣味があるのだと受け取ってしまい、機嫌取りにはならなかった

私にそういった趣味は無く、すると言ったのは何度か彼が私にその行いを要求したから

いつも渋って結局は実行しない私が行動にうつせば、少しは許してもらえるかもと期待した本音もある

こんな結果になるならあんな事は言わず、素直に謝罪していたら良かった

「ほら、お家に着いたよ。早く大好きなお母さんに、ただいまを言わなきゃね。」

深夜の住宅街は車が少なく、彼がスピードを出したから自宅前に到着したのはあっと言う間

窓から覗いた自宅の灯りは全て消え、玄関のライトすら真っ暗

自宅を出る時、両親には何も言わずにひっそりと出たから私が居ないとは気付いていないだろう

その証拠にメールも着信も無し、外出していたとバレないよう静かに動かなくてはならない

「なまえ?降りないの?」

「………キス、しないの?」

いつもなら私が車を降りようとする前に彼はキスをしようとシートベルトを外し、自分の方へ手招きする

それが今日は早く降りて欲しいかのような質問を寄こして、質問に質問で返した私に溜息をついた

続いてハンドルの上で腕を組み、顎を置いて長い前髪の奥から此方をジッと見つめる

彼が駐車場に現れてからの短い間に、私は何度自分の言動を後悔しただろうか

今回も失敗、彼が私とのキスを拒んでいるのは今の反応で明らかになった

「なまえがしたいならするけど。」

「…ううん、良い。もう、帰るね。」

「ついに俺とのキスも嫌になったの?」

それは自分じゃないかと言いたくても、今の私に彼を責める資格は無い

なので首を左右に振って、一度は掴んだドアノブを手放し少しだけ彼へ身を寄せた

すると彼はシートベルトを外し、ゆったりとシートに身を預けて私の動きを見届けようとする

手招きしてくれなきゃ、いつも通り彼の膝上に移動して良いのかが分からない

簡単に触れるだけのキスだけで済まし、早く彼を帰宅させるべきなのか

「…満足した?」

「………うん。」

迷っている内にも無意味な時間が流れ、彼の帰宅時間が遅くなる

だからなのか、痺れを切らした彼は私の肩を掴んでたった一瞬のキスをしてくれた

キスと言うより、唇がぶつかっただけと表現した方が正しい気もする

終えた彼はやっぱり普段とは別人で、此方を見ようともせずに再びシートベルトを装着

満足したどころか、彼の腕に縋りついてでも許しを請いたい

どんなに酷い言葉を受けてどんなに冷たい視線を向けられても、最終的に彼が私を許してくれるならどんな酷い仕打ちにだって耐えられる

今日は最後まで許してもらえない上に、彼は頗る不機嫌

自業自得だと諦め、また会う日までにどう謝罪すべきかを考える必要がある

約半日後、彼は私を友人に紹介するのだ

流石にその約束は無くなっていないだろうから、今日は眠らず必死に上手に謝罪する方法を考えよう

「なまえ、おやすみ。」

「おやすみなさい。」

車を降りてドアを閉めるまで、彼は私を見てはくれなかった

私が家の中に入るのも見届ず、ドアを閉めるとそのまま車は静かに来た方向へと戻って行く

これでお別れ、なんて事になったらどうしよう

帰宅した途端アドレスを変え、私の番号を拒否されるようになったらお終いだ

そう考えると恐ろしくなり、幾ら身を摩ろうと震えは止まらなかった

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