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ひとつ屋根のした。

 

 言いながら、篠原はじろりと俺を睨んだ。


 それもその筈。だって、里緒は華月の家ではなく、それより二駅先にある俺の家に戻っていたのだから。


「前日に雨に濡れただろうから、風邪で学校を休んだのには納得したけれど、心配して電話しても家に行っても里緒は出ないし、ユリーさんは新婚旅行中。じゃあ一体、里緒はどこに居るのかと気が気じゃなかったです」


 どさくさに紛れて俺に恨み事を言う篠原に、引きつりながら先を促す。


「…それで、色んなことがいっぺんにあってイラついていた私は、人はいいのだけど変なところでしつこさを見せるおじ様にいい加減ウンザリして、うっかり言ってしまったんですよ。そもそも里緒には、もう既に心に決めた愛する婚約者が居るので駄目ですって」


 するとおじさんはこう返したそうだ。


『なら、その婚約者に会わせて欲しい。本当に彼女に相応しい人物かどうか、この目で見極めたいから』――と。


 ……何様だよ、そのオヤジ。

 思わず内心で毒づく俺に、それに気付いたらしい篠原がクスリと笑んだ。

「…まぁ、人を見る目だけは確かなのですけどね」

 だからこそ、里緒を見初めたのでしょうと、解るけれど解りたくないことを篠原は言う。


「……それで、引っ込みが付かなくなり、急遽、里緒の婚約者役を用意せざるを得なくなったってことか…」


「…そういうことです」


 篠原は心底疲れたように、溜め息混じりに呟いた。


 嘘を仮の真実に仕立て上げて里緒をあのオヤジから護る為、篠原はどうしても里緒に内緒で里緒の婚約者(仮)を用立てる必要があった。

 里緒に内緒だったのは、恐らく余計な心配をさせて不安を扇がない為だろう。

 が、しかし。

 肝心の相手役がなかなか見付からない。


「本当に悩みましたよ…。下手な相手じゃおじ様に納得しては貰えない上に、逆にその相手自身が里緒に懸想しかねない…。それは僕としても困るのでね」


 俺は、うちで語った篠原の話を思い出した。

 

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あきゅろす。
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