朱い夜は眠れぬ唄を。 2 幼い頃から、わたしは眠ることが出来ない子供だった。 母親のお腹から生まれ落ちた時、わたしにはわたしと同じ遺伝子を持つ双子の姉が居て、同じ容姿・同じ声・同じ血を分け合っていた。 けれど、同じ筈だったわたし達には、決定的に違うものが存在した。 それが“睡眠”だった。 姉の継莉(つぐり)が正常な睡眠を取れるのに対し、わたしにはその機能が欠落していたのだ。 眠れない躰。眠らなくていい躰。 ……眠ることが、出来ない躰――。 「――朱莉ちゃん!」 ガラッと保健室のドアを開けて誰かが駆け込んで来た。聞き慣れた声に目を向けると、そこには軽く息を切らした見慣れた男子生徒が居た。 「真一か…。保健室では静かにしなきゃダメじゃない」 「あ、ごめんごめん」 エヘヘと照れたような笑みを浮かべて、全く真剣みの欠片もない謝罪を口にする学生服の男を見て、小さく呆れる。 ふわふわした色素の薄い癖っ毛の髪の下には、とても同じ高校二年生とは思えない(そして、本当に男なのかと疑ってしまう)程の、愛くるしくも幼げな顔が収まっている。 その可愛いらしい顔が、不意に心配げな表情へと色を変えた。 「朱莉ちゃん、体育館で倒れたって聞いて、びっくりして飛んできたんだけど…大丈夫?」 ベッドに横たわるわたしに近付き、子犬じみた丸い目を小さく揺らす真一。 その肩に、白衣から伸びたしなやかな手で彼はそっと触れた。そして紡がれた言葉に、わたしも真一も目を剥く。 「真一君、朱莉さんはまだ本調子じゃないみたいなんだ。心配だから、これから病院に連れて行こうと思う」 [*前へ][次へ#] [戻る] |