朱い夜は眠れぬ唄を。
11
――あ、と思った時には遅かった。
「――っ、…っはあ、う、あ゙あ゙あ゙…っ!!」
突如襲った耐え難い喉の渇きと苦しみに、わたしは胸を掻きむしる。
発火したかのように熱を持つ躰。
それはわたしの中に流れる、呪われた血の暴走――。
「――っ朱莉!」
不意に力強い腕で両肩を掴まれる。ひんやりとした冷たい手に少しだけ躰の熱が癒された。
でも足りない――まだ足りない。
苦しくて涙が目に滲む。縋るようにその胸に手を掛けると、指が衣服に食い込んだ。引き締まった肉の感触。
瞬間、まだ残っていた理性で理解した。
ああ――、これは成一だ、と。
「…っ、ごめん朱莉…っ」
その呟きが耳に届いた時には、それはもう行われていた。
抱き寄せられる躰。塞がれた唇。生温かい感触と共に口内に広がるのは鉄の味と、流れ込む熱き生命の奔流――。
触れた唇を介し、成一からもたらされる強い霊力を持つ血がわたしの体内で吸収されると、抑制を欠き、暴走しかけていた呪われた血の猛りが鎮静化していった。
喉の渇きが癒され、目尻に溜まった涙が静かに頬を伝い落ちる…。
躰を蝕んでいた熱は引いていた。
「…平気か?」
気遣う成一の涼やかな声にそっと目を開けると、その端正な顔が間近にあり思わず面食らった。
「――っも、もう、平気。ありがとう…、」
絡む声で何とかそう返すと、成一はそうか…と囁いてわたしの前髪を掻き分け、浮かんだ汗を何の躊躇いもなく手のひらで拭う。
……何故だろう。それがひどく恥ずかしい。
居たたまれず、未だわたしの肩を抱く成一の腕から逃れる為、その胸板に手を添えた時だった。
「――朱莉ッ! 大丈夫!?」
スパンッと勢い良く開かれた襖の向こうに、目を見開いて固まる、わたしと同じ顔の少女が居た……。
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