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 「…引き留めようとして、ねぇ…。それでその据え膳に食らいつくお前もお前だけどな」


 名村の冷ややかな指摘に、吾端は「うっ」と唸った。


 「あ、でも、ちゃんと言いましたよ!『もう、変な気起こさねぇから安心しろ』って」


 慌てたように弁解する吾端の言葉に、名村は呆れた視線を送る。


 「…やっぱお前、ダメダメチェリーだわ」


 「は?」


 「…まあ、いい。んでどうすんだ。気持ち、伝えなくていいのか?」


 「………言える訳、ないじゃないすか…」


 苦しげに零した言葉は溜め息混じり。

 うなだれる吾端の頭に手を置くと、名村は言った。


 「…結局、お前が悩んでるのはそれだろう?
 いきなり降って湧いた初めての気持ちに混乱して、その気持ちがお前が認識するより先に行動として表れたせいで当惑し、自己嫌悪。

 で、やっとその気持ちの正体が判ったと思ったら、今後はそれを伝えることで受けるかもしれない痛みが邪魔をする…でも、気持ちは溢れて止まらない――。だろう?」



 名村の的を射た指摘に、吾端はぐうの音も出ない。


 ――そう、怖いのだ。


 この気持ちを伝えて、拒否されたら――?

 そう思うと動けない自分が居た。

 そのくせ、莉緒を愛しく思う気持ちは湧き水の如く溢れてくる。

 その想いが、吾端を悩ませる。

 訴え、叫ぶからだ。



 “莉緒に触れたい”と――。



 なまじ、その温もりを、柔らかさを知ってしまっているが故に、更にそれは吾端を苦しめた。


 莉緒の嫌がることはしたくない。もう、あんなふうに泣かせたくはない――。


 けれど、そう思う反面、莉緒に触れたいと思う気持ちは既に吾端の限界を超えていた。


 吾端は思う。



 ――もう、触れないって、約束したのにな…。


 その端正な顔に浮かぶのは、自己を嫌悪し嘲る、自虐的な苦笑――。



 

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