10 カフェを出ると、吾端はさり気なくまどかの手から半分だけ紙袋を取り上げた。 「、あっ」 「半分だけでいいよ。それだけでも充分助かるし」 そう言って、ありがとな、と笑顔を見せる吾端。途端に、まどかの頬が紅く染まる。 「まどかちゃん?」 急に顔を隠すようにして俯いたまどかに、吾端は眉根を寄せて身を屈め、その顔を覗き込もうとした。 まどかはそんな吾端を拗ねた上目遣いで見上げ、苦情を零す。 「…もうっ。そんなことするから、女の子はドキドキしちゃうんですよ?」 「へ?」 全くもって意味を理解していない吾端は、惚けたように瞬いた。 そのまましばらく見詰め合う2人。 まどかの少し潤んだ瞳が、吾端の端正な顔を映して揺れるように煌めく。 物言いたげな双眸に、まどかの言わんとすることを探ろうと視線を交わすが、結局何も見いだせず…。 コトリ――吾端は小さく首を傾げると、困ったように眉を下げて微笑した。 「えっと…ごめん。よく、わかんないんだけど…」 まどかは大きく嘆息する。 「……やっぱり吾端さんて、天然タラシなんだ」 「え?」 「何でもありません!」 新たな呟きに再度瞬く吾端を置いて、まどかは歩を進める。 「早く帰らないと日が暮れちゃいますよ」 すっかり元の笑顔に戻ったまどかに促され、吾端も慌てて後を追った。 陽が傾き出し、影が長さを増す。 繁華街を抜け、住宅地に入った辺りで、吾端はチラリと腕時計を見た。 ――4時13分。 …参ったな。 まどかに気付かれないように小さく息を吐いた。 本当は、すぐにタクシーを拾うつもりでいた。 元々、荷物が多くなるだろうことは判っていたし、帰りはバスよりタクシーの方がいいだろうと思っていたからだ。 けれど、隣で楽しそうに他愛のない話に花を咲かせるまどかがどんどん歩いて行ってしまう為、なかなか切り出すことが出来ずにいた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |