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 ――“まさか、泣くほど嫌がられるなんて、思わなかったから…”


 寂しげに小さく落とされたその言葉に、胸がズキリと痛んだ。

 違う――吾端のことが嫌だった訳じゃないんだ。

 けれど、それを言ってどうする?

 他に、なんて言ったらいい――?


 うまく言葉が見つからず言いあぐねている間に、吾端は私を抱き締めていた腕を解き、私から離れ距離を置いていた。


 「…ごめん、もうむやみにお前に触れたりしないからさ。…血分けのことも、気にしなくていいから…。ほら、俺、頑丈なのが取り柄みたいなもんだからさ!」


 軽く笑い飛ばすような口調とは裏腹に、吾端の瞳は私を映してはいない。

 向けられない視線がこんなに悲しいなんて、知らなかった――。


 「あ、吾端…、」

 「――もう部屋戻れよ」


 逸らされた視線のまま放たれた言葉は冷たくて硬くて――

 胸にグサリと突き刺さった。


 「…お前がそこに居ると、俺も寝れねぇじゃん…」


 感情の欠けたような声で呟かれ、また涙が滲んだ。

 けれど私はそれを必死で堪え、立ち上がる。


 「…そうだな。悪い。…血分け、有難う。お休み」


 何とかそれだけ告げると、襖を開け廊下に出た。

 ひとの居ない廊下は静かで寒々しく、自室としてあてがわれた部屋に戻る間に、私の躰はすっかり冷え切っていた。

 小さく身震いして二の腕をさする。

 早く布団に潜って暖を取ろうと、ベッドに手を掛けたところでそれは来た。


 「――…、…ぅ…っ―」


 込み上げる涙に視界が歪む。

 嗚咽が洩れないように口を両手で塞いだまま、私は布団に顔を埋めた。


 ――…どうしてなんだろう。

 どうして私は、いつもいつも…。


 ――こうも大切なひとばかりを、傷付けてしまうのだろう…――。



 布団に顔を埋めたまま、私は呟く。


 私を捜しているであろう、大切な片割れと、

 たった今傷付けてしまったばかりの、生まれて初めて好きになった男に向けて。



 「……ごめん…、――」



 ――届くことのない、謝罪の言葉を…――。



 

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