14 ――“まさか、泣くほど嫌がられるなんて、思わなかったから…” 寂しげに小さく落とされたその言葉に、胸がズキリと痛んだ。 違う――吾端のことが嫌だった訳じゃないんだ。 けれど、それを言ってどうする? 他に、なんて言ったらいい――? うまく言葉が見つからず言いあぐねている間に、吾端は私を抱き締めていた腕を解き、私から離れ距離を置いていた。 「…ごめん、もうむやみにお前に触れたりしないからさ。…血分けのことも、気にしなくていいから…。ほら、俺、頑丈なのが取り柄みたいなもんだからさ!」 軽く笑い飛ばすような口調とは裏腹に、吾端の瞳は私を映してはいない。 向けられない視線がこんなに悲しいなんて、知らなかった――。 「あ、吾端…、」 「――もう部屋戻れよ」 逸らされた視線のまま放たれた言葉は冷たくて硬くて―― 胸にグサリと突き刺さった。 「…お前がそこに居ると、俺も寝れねぇじゃん…」 感情の欠けたような声で呟かれ、また涙が滲んだ。 けれど私はそれを必死で堪え、立ち上がる。 「…そうだな。悪い。…血分け、有難う。お休み」 何とかそれだけ告げると、襖を開け廊下に出た。 ひとの居ない廊下は静かで寒々しく、自室としてあてがわれた部屋に戻る間に、私の躰はすっかり冷え切っていた。 小さく身震いして二の腕をさする。 早く布団に潜って暖を取ろうと、ベッドに手を掛けたところでそれは来た。 「――…、…ぅ…っ―」 込み上げる涙に視界が歪む。 嗚咽が洩れないように口を両手で塞いだまま、私は布団に顔を埋めた。 ――…どうしてなんだろう。 どうして私は、いつもいつも…。 ――こうも大切なひとばかりを、傷付けてしまうのだろう…――。 布団に顔を埋めたまま、私は呟く。 私を捜しているであろう、大切な片割れと、 たった今傷付けてしまったばかりの、生まれて初めて好きになった男に向けて。 「……ごめん…、――」 ――届くことのない、謝罪の言葉を…――。 [*前へ][次へ#] [戻る] |