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こねた
泣き虫まーくん(政宗)
伊達軍の秋人といえば筆頭の恋人として軍内では有名であった。
奥州筆頭本人に直接彼との関係を聞くと、
「アイツがおれにべた惚れなんだ。ま、当然だろ?」
と自信満々に返ってくるのだから広まったのも当然だろう。

そして、今宵もまた筆頭の部屋へと秋人は呼ばれる。

「筆頭!秋人を連れて来ました!俺は此処までで下がりやすんで楽しんで下せい!」
「人払いもすんでるな?Good.秋人、今日もたっぷり可愛がってやるぜ?覚悟しな」

色男っぷりを発揮しながら秋人の肩を抱いて部屋の中に入っていく政宗の姿に「今日もイカしてるぜ、筆頭」とキラキラした目で呟いてから、その伊達軍兵士は足早にそこを離れた。

彼が完全に声の届かない所まで行ったのを気配で確認して、「今日もイカしている」筆頭政宗は正座した秋人の胸に飛び込むように抱き着いた。
そしてベソベソと涙をこぼし始める。

「秋人〜ッ!うぇっ、うぅっ」
「はいはい。よく頑張りましたね。えらいえらいです。いい子いい子してあげますからね、言いたいこと全部どうぞ」
「うわわぁーん!」

童子のように泣いている彼はまるで先程までとは別人のようだった。
しかし別に二重人格という訳ではなく、彼はあくまでも奥州筆頭を務める政宗本人である。

「ひッぐ、うっ、小十郎は相変わらず顔怖ぇしよぉ、軍の奴らも柄悪ぃし声でけぇしツッパってるしラジオ始めるし、おれのUMAは勝手に空飛ぶしよぉ……!つーか、乗馬の訓練の時に散々小十郎が、『手綱は馬を操る為のものですから手綱に掴まって馬に乗ってはいけません』つってたから頑張って手綱から手ェ放したのに今更危ねぇとか言いやがるし、でも軍の奴らが『流石筆頭!粋な乗り方だぜ』とか言うから引っ込みつかねぇし……!」
「まだそれで悩んでいらっしゃったのですね。可哀相に。どうせ皆、馬上から攻撃する時は手を放すんですから大丈夫ですよ。ほら、よしよししてあげます」

秋人の着物を握りしめて愚痴りながら泣く政宗の背中を秋人の手が撫でれば、受け入れてくれる安心からか政宗は余計に涙が止まらなくなった。

「うわぁん、秋人ー!おれ、ホントに奥州筆頭やってていいのかなぁっ!?」
「もちろんですよ。あなたが頑張っているおかげで今の伊達軍や城下があるのですから。頑張っててすごいすごいです」
「でもおれホントはこんなだしよぉ、この前の戦のとき小十郎がすっっげぇ顔して『あまり前に出なさるな!』っていうもんだから従ったら、『政宗様、何処か具合でも!?クッ、此処は小十郎が……!どっからでも来なァ!我こそが独眼竜政宗なり!』つって超イキイキと飛び出して行くんだぜ!?あいつぜってぇ奥州筆頭の座を狙ってるんだよぉ……!」

落ち込んで疑心暗鬼にすらなりはじめた政宗に、秋人は撫でていた手を止めて政宗の顔をそっと持ち上げ目を合わせる。

「本当はそんなこと思っていないんでしょう?小十郎様の忠心はあなたが一番分かっているはずです」
「うん……わかってる。けどよぉ、あいつに限らず軍の奴ら皆おれのこと妄信しすぎてんだよぉ!いつあいつらの期待裏切っちまうかって怖ぇんだよぉっ!」
「そうですね。怖いですよね。よしよしいい子いい子です。怖いのにいつも頑張って期待に応えててえらいえらいです。でも私の前では思う存分好きにしていいです」

そう言ってぎゅうっと秋人が抱きしめると政宗はグリグリと頭をその胸に押し付けた。

「う、うえぇーん!秋人ーっ!おれのこんなとこ、ばれたのがアンタで良かった……!他の奴らだったらと思うと……うえぇん!秋人で良かったぁ!」
「そう言って貰えると嬉しいです。ありがとうです」

秋人がこうやって政宗の愚痴を聞くようになったのは本当に偶然で、当時政宗の部屋に上がる様なことなどない下働きだった秋人が強風で飛ばしてしまった桶が人払いのしてあった政宗の部屋の障子を破り、それを追ってきた秋人は片目から涙をこぼす政宗に出会ったのである。

「男はどうあるべきとか、国主はどうあるべきとか、あなたの周りの方々は煩くおっしゃいますからねぇ」
「秋人ーッ!愚痴を零せるお前と頼りになる小十郎がいなきゃ、今ごろおれは狂ってあの明智みてぇになってたぜ!?ホント感謝し、て……。ん!?」

何かに気づいた政宗は、パッと秋人から離れて涙を拭い胡座をかくと「奥州筆頭」の顔になって煙管を吸いながら、自分の羽織りを秋人に渡す。
それで誰か来るのだと察した秋人も羽織りを受け取って政宗の涙で濡れた胸元を隠した。
端から見れば情事に及ぼうとしたところで来訪者に気づいて慌てて乱れた着物を隠したように見えるだろう。
案の定、ドタドタと走って駆け込んできた兵は襖をバッと開けたあと気まずそうな顔をした。

「うわっ!お、お楽しみのところすいやせん!ですが武田の忍、猿飛の野郎が侵入しやした!」
「Ha!上等!おれと秋人の時間を邪魔したんだ。たっぷりお仕置きしてやらねぇとな!……秋人!帰って来たら今夜は寝かせねぇから楽しみにしてな!」
その台詞に顔を赤らめる演技をしながら秋人は、ああ政宗様は猿飛殿がとても恐ろしくて会いたくないと言っていたから今夜は一晩中愚痴を聞かされるのだな、と考える。
政宗は煙管を秋人に渡す際に秋人にそっとその手を握ってもらい勇気を出してから見た目は意気揚々と部屋から出ていった。
その姿が見えなくなったころ秋人は呟く。

「頑張って下さいね、泣き虫まーくん」

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