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こねた
◆相互依存愛死愛(小早川)
ぼくは金吾の幼馴染みだ。

「ぼくの後ろにいれば怖いことは何もないよ」
「きみの出来ないことは代わりにぼくがやってあげる」
「ぼくがいれば全部だいじょうぶ」

この戦国の世に秀吉様の元で出会った幼少期の金吾にむかってはじめて発した言葉がそれだった。

出会ってすぐは、金吾のそのウジウジとした性格を鬱陶しく思っていて、泣きつかれてもただ黙っているだけで何も言葉を返していなかった。
だが、金吾はそれを黙って聞いてくれると勘違いしたらしく懐かれてしまった。
懐いてからは笑顔で「秋人、秋人」とぼくを追って来るようになった金吾に、ぼくのかれを面倒に思う気持ちは膨れ上がるばかりだった。鬱陶しく思っているやつの満面の笑みを見たって嬉しくなるわけがない。

その気持ちが変わったのは出会ってしばらくした、ある日のことだった。
偶然、かれがいじめられている現場に遭遇したのだった。
身を丸めて殴られているかれは顔を泥と涙でぐちゃぐちゃにして泣きわめいていた。
ぼくの他にも通り掛かる人間は居たが誰も助けてやろうという気はないらしく、足早に立ち去るかヒソヒソと何事かを噂しながら見ているかだ。

ここであいつを助けてやったらどうなるだろう

そんなのは火を見るより明らかで、ぼくに敵意を抱く人間が増えるだけである。
だが、偶然そのいじめていた人間はぼくよりも下位の家の子供だった。
今ならあいつを救うことも可能だ。

「……救う?」

救うということを考えた瞬間に背中を不思議な感覚が走る。
そして、それに後押しされるようにぼくはそのいじめていたやつを追い払った。

「秋人、ありがとう!」

泥やら何やらで汚い顔を笑顔にする金吾を見てゾクゾクとするような感覚が全身に広がる。

こいつならぼくがぼくの、

そこまで考えたところであの言葉がちいさい金吾に向かって口から飛び出て行ったのである。

「ぼくの後ろにいれば怖いことは何もないよ」
「きみの出来ないことは代わりにぼくがやってあげる」
「ぼくがいれば全部だいじょうぶ」

それ以来毎日のようにその言葉を金吾に言い聞かせている。


その言葉通りにかれを守るためにぼくは、力をめきめきとつけていった。
次男だったが長男が勝手に死んでくれたおかげで随分やりやすかった。弟達が愚鈍だったのも助かった。
そしてある日、ぼくの刀から身を焦がす程のまばゆい光が出るようになった時には、神もぼくに味方しているんじゃないかとすら思った。
金吾の初陣にもピッタリと連れ添って日常生活でもいつでも側で守って例の言葉を何度も聞かせる。
どんどん強くなっていくぼくとは逆に、金吾はどんどんぼく無しじゃ何も出来なくなっていった。

かくしてぼくは金吾を手に入れたのだ。

今じゃ金吾はぼくがいなければ何も出来やしない。
ぼくの後ろにいれば背筋も伸ばせるのに、ぼくがいないと鍋の中に縮こまる。
何かあったら必ず「秋人ー!」とぼくを呼ぶ。
金吾にはぼくしかいないんだ!




「だからね、ぼくにはあなたが邪魔なんですよ。鬱陶しいんです。金吾の好きな鍋ですら取り上げてしまいたいくらいなのに。ぼくの金吾をたぶらかさないで下さい。ついでにもうここへは来ないでいただけませんか、東の総大将さん」
「おまえは……」
「あ、東にはつきますよ。機を伺って西を裏切るつもりですから。他にもいくつか血の密約を交わしたところがありますのでそこと同時に不意打ちで行動を起こします。ハイ、これが西につくのは形だけで実際はあなたの味方であると記した紙です。計画の詳細も書いてますよ。捨てたら祟ります」

懐から取り出した、一番上等な漆を何重にも塗り重ねた箱に入った書を彼に渡す。

「……これは、秋人の案か?」

「いいえ。“あの”金吾があなたにつきたいとぼくに言ったんです。かれが鍋以外のことに関して選ぶだなんて、ホントにあなたは虻蚊よりも鍋の灰汁よりも鬱陶しい。目障りなんですよ。金吾に甘い顔を向けないで下さい。金吾を甘やかすのはぼくだけでいいんですから。……まあ、裏切りはぼくの案です。金吾をいじめた奴らへの制裁ですよ制裁。秀吉様にはお世話になりましたが彼らは金吾をいじめるのだから仕方ない。裏切るのは彼は裏切りが一番嫌いって言ってるんで。ああ、それはあなたのせいでしたっけ」

「秋人……おまえ、前まではもっとこう……寡黙な感じじゃなかったか?」

「金吾がいれば、ぼくはただの物静かで温和しくて金吾に甘いかれの幼馴染みですから。好青年路線も考えていたんですが、あなたに先を越されましたしね。あ、今の語尾は別に遠回しにあなたに死ねと言ったわけではないですよ。まだ金吾のためには死んでもらっても困りますし、ぼくは死ねと言いたい時はもっと分かりやすくハッキリ死ねと言って、死んでもらいますからね。アハハハハ」

そう笑うと東の総大将はさらに難しそうな顔になった。

「金吾は随分と厄介な男に捕まったものだな……。昔はじめて金吾と秋人に会った時はまるでワシと忠勝を見ているようだと思ったんだがなぁ」

「全然違うじゃないですか。でもまあ、ぼくがいると金吾は態度がデカくなりますからね。それはあなたの昔の、誇大妄想に取り付かれているかのような分不相応の態度のデカさとは似てなくもないですよ。そういえばあなたは、やっと態度に力が追いつきましたね。まだまだ発言には追いついていないようですが」

「……誇大妄想はおまえの方なんじゃないか?秋人。人はたった一つの絆で変わることができるが、一つだけの絆では人は生きてはいけないんだ。おまえに金吾の絆全てを担えるのか?」

「ぼくが誇大妄想?確かにそうですね。自覚的に、ぼくがぼくの意志で誇大妄想を培ったんですから。それにあなたは誤解をしている。ぼくは金吾と友達としてお互いに高め合おうだなんて思ってないんだ」

目を見開く東の総大将に、金吾には絶対見せない作り笑顔を向ける。


「ぼくは金吾を愛してるんだ」
「ぼくだけでは金吾が生きられないと言うならば」
「ぼくの愛で死ねばいい」

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あきゅろす。
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