こねた
右と左「エイプリルフール」(政宗)
4月1日。
年度がかわり年上の想い人に何となく少し近づけたような気がして浮かれていた政宗にさらにハッピーなことが起こる。
昼食後出かけた先で想い人を見つけたのだ。
政宗は瞬時に500メートル先にいる最愛の人をロックオンすると音速も超えるのではという速度でその人に駆け寄る。
そしてぐるりとその人の前に回って声をかけた。
「Hey!秋人!偶然だな!」
それに対し声をかけられた方はげんなりとした声を上げた。
「私のよく通る道をわざわざ毎日散歩して、その上普通なら出会わない距離を全速力で詰めておいて偶然とは言わないでしょーが、パンドラさん」
「じゃあdestinyだ。あとパンドラって呼ぶな、政宗って呼べ!」
そんな会話をしながら立ち止まりもしない秋人を追いかけて、政宗はもう何度も言ってきた言葉を告げる。
「秋人、好きだ!!」
いつものように出会ってそうそうに告白した政宗に、やはり秋人は顔色を変えることはない。
さらにこんなことを言い出した。
「おやまぁ、そういえば今日はエイプリルフールじゃないの」
そのセリフに政宗は青ざめる。
「違う!嘘じゃねぇっ!嘘じゃねぇよ!」
「あらら、パンドラったら道でそんな大声出したら駄目ざんしょ」
「……sorry.でもパンドラって呼ぶな政宗って呼べよ」
また軽くあしらわれて不機嫌になりながらも、そう主張する。
するとそんな政宗を見ながら何か思いついたような顔をした秋人が口を開く。
「私はね、パンドラ。わざわざ相手を驚かさないように隠してやってる顔を暴いてくるお前さんを、それでも怯まないお前さんを」
そこで彼は言葉も足も止める。
政宗もそれに倣って足を止め、訝しげに彼を見上げる。
目が合った瞬間、秋人はいつになく優しい顔で笑うと、政宗の頭を撫でた。
「私はね、政宗。そんなお前のことは嫌いじゃない。むしろ、好きだ」
秋人にそう言われた政宗は胸が高鳴るのを止められなかった。
わかってる。アンタが今日はエイプリルフールだからこんなことを言うってことぐらい。
そう自分に言い聞かせても、名前を呼ばれて好きだと言われ高まった鼓動は一向におさまらない。
くやしくなった政宗の脳裏に誰かが言っていた「エイプリルフールの嘘をついていいのは午前中だけ」というのが思い浮かんだ。
どうせ心にもないことを言ったに違いない秋人に一矢報いようと、政宗はそれを口にする。
「エイプリルフールに嘘をついていいのって午前中だけなんだぜ?」
しかし秋人の反応は意外なものだった。
「うん、もう午後だねぇ」
まるで焦った様子もない秋人に、逆に政宗が焦る。
「知っててさっきの言ったのか!?」
「まあ」
再び歩き出した秋人を政宗は慌てて追いかける。
「じゃあさっきのは嘘じゃねぇのか!?」
「どうざんしょ。大人は沢山嘘をつく」
「じゃあ嘘だったのか!?」
「大人だって本当のことも言うざんす」
結局、秋人に送り届けてもらった自宅で政宗は、今日もはぐらかされて何の進展もなかったことに舌打ちすることになる。
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