こねた
右と左(政宗)
放課後の教室。
教師に用事をおし付けられた幸村を待っている間に、元親、佐助の二人は、政宗が勝手に語り始めた彼の想い人の話を聞かされる羽目になった。
佐助の方は興味がないらしくまるで聞いていなかったが、元親はそこそこ聞いてやっているようで、相槌を打ったりたまに質問したりもしていた。
そうしてそのうち、
「その男とどうやって知り合ったんだ?」
と質問した。
瞬間、政宗は待ってましたとばかりに嬉しげに顔を輝かせて勢いよくスラスラと意中の人との思い出を語り始める。
「あれはなんてことのない冬の日の夕暮れのことだった。おれは部活の帰りで、何となく寄り道でもしようかと思ったが……」
「あーあ、チカちゃんったら……。この話長くなるぜ」
「なんだ?佐助は聞いたことあんのか?」
佐助はげんなりとした様子で、うんうんと頷く。
「しっかり聞かされちゃったよ……『最悪の出会い編』に始まって『突っ掛かり編』『衝撃のフォーリンラブ編』『アプローチ編』『桃色妄想編』」
「おい、てめぇ、間違えてんじゃねぇよ!」
気持ち良く『最悪の出会い編』を語っていた政宗が、バンッと机を叩いて佐助に抗議する。
「最後は『桃色“予定”編』だろうが!」
「どっちにしろ変わらねぇだろうがよ……」
脱力したように元親は呟いた。
「……あれ?そういや政宗の好きな人ってどんな顔なのよ?どうせ携帯の待受にでもしてんでしょ?見せてよ」
ふと、これだけ話を聞いてるのにまだ政宗の想い人の容姿を知らないことに気づいた佐助がねだる。
すると政宗はキョトンとした顔をした。
「Ah?あの人の顔を待受にはしてねぇぜ」
政宗の返答に二人はええっ!と声を上げ、政宗に詰め寄った。
「おいおいおめぇそりゃ嘘だろ!?」
「まっ先に盗撮でもして待受にしてそうなのに!?またなんでよ!?」
問いつめる二人に政宗は、分かってないなぁアンタら、と少しふてぶてしい顔をして言う。
「携帯開いてすぐにあの人の顔が見えたらドキドキし過ぎて大変だろうが!だからおれの待受はあの人の手だ!夜のお供にも使ってるぜ!」
政宗の発言でしばし静寂が訪れた。
「……そこまでとは思わなかったぜ」
「……予想を上回るド変態なご発言で、俺様ドン引き〜」
「Thanks.」
「誉めてないから。で?その人の写真見せてよ。ないことはないんでしょー?」
ドン引きしたと言いながらまだ、写真を見たいと言う佐助に、政宗の目が困ったように揺らいだ。
そして思案するように瞼を伏せた、ちょうどそのとき、
「遅くなってすまないでござる!!」
ガラガラとドアが開いて幸村が入って来た。
「もー、旦那ったら遅すぎ」
「さっさと学校出ようぜー」
元親たちが既に興味が失せたように座っていた椅子から立ち上がるのを見て、政宗はこっそり安堵のため息をついた。
本当のところ、政宗があの人の顔を待受にしない理由は、あの人がそれを嫌がったからだった。
彼自身が不在の場所で不特定多数に見られる可能性のあるものに、彼曰くの「崩れている」顔を、例えその部分を隠していたとしても使わないで欲しいとのことだった。
反論はしたが言いくるめられ、盗撮していた写真に関しても決して誰にも見せないことを約束させられてしまった。
だから先程は写真を見せなくてよくなったことに安心したものの、己の中に残る釈然としない気持ちを思い出して政宗は不満げに顔をしかめた。
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