学園の王子様!(なんだか、おかしい!) 毛利元就の場合! 昼休みも終わりに近づき閑散とした図書室。 「毛利先輩って読書家ですね」 突然、そう声を掛けられて驚きのあまり肩を震わせてしまった。 冷徹と噂される我に声を掛ける者など、生徒の中では滅多にいない。 そして図書委員の彼とは本の貸し借りの度に顔を合わせているが、このように声を掛けられたのは初めてだった。 「……っ」 何と返せば良いのだろう。 「毛利先輩ほど本を借りに来る人、他に居ませんよ」 「……!」 気づいてくれて居たのか、と嬉しい反面、羞恥が襲う。 なにせ自分は彼を目当てにこの図書室に通っているのだから。 「っき……、……」 何か言おうとしたが何も思いつかない。 「あ、この本、俺も読みました」 「……そ、……、……」 「面白かったですよ」 返事一つ出来ないままに、本の貸し出し作業が終わってゆく。 「はい、出来ましたよ、毛利先輩!」 ぽん、と本を渡されて、焦った。 とんだ失策だ。 このまま、終わるのか。 「……名……」 「な?」 漸く思いついて呟くと彼の耳に届いていた。 それに後押しされてもう一度口を開く。 「……名は……」 そこで、はたと止まり考えた。 いきなり名前を聞くなど不自然ではないか。 やはりこのまま立ち去るのが定石か。 「俺は、王路っていいます」 彼はにこりと笑った。 「また来て下さいね、毛利先輩」 途端に高まった胸の鼓動に、策では太刀打ち出来ない感情を見つけた。 我が策は臨機応変。 (迷い惑う、元就さん!) [*前へ][次へ#] [戻る] |