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噛み合わぬ花(元親)
「俺はアンタなんか忘れたよ」


「ふう……やっと帰って来れた」

交差点のど真ん中、行き交う人々の姿と停止している自動車を確認し、俺はため息を吐き出す。
赤信号になる前に、歩道へと逃げる。


「カミサマも鬼畜だよな、愛し合うことが帰る条件とか」


信号が変わった瞬間、急発進する「俺を轢き殺した」車を、その車内から流れる音楽に顔をしかめながら見送る。


「愛し合うにも周り、男ばっかだったし」


見送った車は暫く進んだ所で急に道を逸れて電柱にぶつかる。


「ケツ掘られる前に帰って来れて良かった」


大破した車の助手席から露出の多い女が転がり出す。


「……死ぬ前に帰って来れて良かった」


スーツを来た男が、転がり出た女の運転席に近づこうとするのを羽交い締めして抑える。


「……死ぬ前に……――が死ぬ前に、――を失う前に、帰って来れて良かった」


女を抑える男に指示された女がケータイで通報する。


「……キス……なんて、しなきゃ……良かった……っ!」


周りで見ていた野次馬がパシャパシャとシャッターを切る。


「…………」


……家に帰ろう。




「……俺はアンタなんか忘れたよ。だから、アンタも……」


此処から海は見えない。



「……忘れてくれない、か。アイツは」


……………………………………


早く夏の花みたいに笑えるようになれよ、
俺の最愛。


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