噛み合わぬ花(元親) 俺を、恨んでいますか。 海斗が居なくなってから一日をボーッと過ごすことが多くなった。 絡繰を作ろうとしてもいい案がサッパリ思いつかない。 そんなある日、毛利から文書が来た。 毛利、と聞いただけで腹を立て破り捨てようとした俺を、野郎共が必死で宥めて中身を読むよう急かす。 渋々それを開いた俺は、目を疑った。 そこには、先の戦闘への詫びと、同盟の申し入れが書いてあったのだ。 しかもその同盟の条件が、お互いに妥協、いや寧ろ毛利の方が多く妥協するような内容だった。 あの戦闘で痛手を負ったウチには好条件すぎるこの同盟。 だが、相手はあの毛利だ。油断ならない。 俺はすぐに毛利の真意を確かめるべく、奴の城へと向かった。 そこで見たのは、空っぽじゃなくなった毛利だった。 本人は冷たい顔を取り繕ってるが周りの奴らを見ればわかる。 相変わらず捨て駒と呼ばれているようだが、毛利を中心としたその部下たちは確かに空気が緩んでいた。 そんな様子に驚きながらも、毛利に同盟の件について聞く。 「毛利ィ!いきなりなんだ、この提案は。何が目的だ」 「我の目的は初めから変わらぬ。叡智による安岐と毛利の末永い繁栄。それのみよ」 毛利がそう言った瞬間、その一番近い所に居た側近が口端を吊り上げた。 疑問を覚えたがとりあえず一旦置いておいて、毛利に反論する。 「つってもおめぇ、今までは戦しまくってただろうがよお」 「……別に貴様が理解出来るとは思っておらぬ。ただ、我は」 「……?」 「……平穏が、欲しくなったのだ」 耳を疑った。 そんな俺を余所に、毛利はさっきの側近に目を向けるとフワリと笑いかけた。 今度は目を疑った。 しかし俺は、惑わされまいと首を振ると毛利に突っ掛かる。 「だが、毛利!俺ァ、こないだの仕打ち、まだ許してないぜ?そんなんで同盟が成り立つってぇのかい?」 「……被害の殆どは貴様が呆けていたからであろう?」 「……ッ!」 毛利の言う通りだった。 俺が、海斗を失った衝撃で使い物にならなくなったのが、甚大な被害を呼んだのだ。 ギリッと歯を食いしばり拳を強く握りしめる。 それに。 海斗を失ったのも、俺の過信のせいだ。 一言も言い返せない。 だが、そんな俺を見た毛利は、今まで見たことがないような表情をして口を開いた。 「……貴様の、愛した男が死んだそうだな」 「――……」 「悪かったなぞとは申さぬ。だが……」 じっと側近の男を見つめながら毛利は言葉を続ける。 「それは……計り知れぬ、辛さであろうな」 それを聞いた側近の男は益々笑みを深くする。 嗚呼、と俺は得心した。 毛利も恋をしているのだ。 それが、毛利軍全体の雰囲気が変わった理由だろう。 恐らく相手はあの側近。 「分かった。同盟は成立だ。……毛利。アンタは、なくすなよ」 「フン、貴様に言われずとも」 同盟を提案した真の理由はあの側近のためなんだろうな。 俺ももっと海斗のことを考えりゃ良かったのに。 馬鹿だなぁ。 こうして隣国は平和になった。 航海する鬼は海に取り残された。 [*前へ][次へ#] [戻る] |