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ステップ2 「今日は一緒に帰っちゃいなさい」


偶然出会えたことがうれしかったからねーさんにメールで報告したら、電話で一方的にアドバイスされたあとオレに何も言わせないうちに切れた。

あいかわらず、ねーさんのアドバイスはハードルが高いとおもう。
でも逆らうとあとが怖いから、昇降口で降りやまない雨を見つめながら幸村さんを待つ。

会って間もないのに一緒に帰れるのかな。
……ちょっとむずかしい気がする。
雨だというのに返却された美術の課題を持ちつづけたせいで痛くなってきた右手をぐーぱーしながらそう考えた。
やっぱりひとりで帰ろーかな……。
弱気になりながらざぁざぁ雨を降り続ける黒い雲を見上げる。

「雨、やまないといいな……」
「何故そう思うのでござるか?」
「ゆ、幸村さん!?」

聞こえた声に降り向くと幸村さんがいた。
その後ろにヘアバンドをした人も立っている。

「誰かを待っているのでござるか?」
「あの、その、えっと……」
いざとなると言葉が出てこない。どうしよう、どうしよう?


「あー……真田の旦那、俺様用事思い出したわ。先帰ってて?じゃ!」

急にヘアバンドの人がそう言って校舎の中に引き返して行った。

当然オレは幸村さんと二人きりになる。
今度こそ言わなきゃこのままじゃ幸村さんが帰っちゃう!

「あ、えっと、その……幸村さん!オレと一緒に帰らないッスか!」

なんとかさそえたけど、はずかしさでいっぱいで目をぎゅうっと閉じる。
するとそんなオレの頭を幸村さんの手がなでた。

「俺も今ちょうどそう言おうと思っておったところだ。では共に帰ろうぞ」

幸村さんはそう言って傘をさして一歩外に出る。
……幸村さんといっしょに帰れるんだ!
喜んだオレはあわてて幸村さんに続こうとしたけど、美術の課題で手がふさがっててなかなか傘をひらけない。
あせればあせるほど荷物が不安定になってひらけない。
どうしよう……幸村さんが待ってるのに!

「……傘を差すのは無理そうでござるな」
「幸村さん、すみません!待たせて……」
「それならば俺の傘に入っていかぬか?」

え?
見上げると幸村さんの顔がすぐ近くにあってその首からたれる炎の形のペンダントがきらりとひかっていた。
そして幸村さんのさす大きな傘にオレも入れられている。

「……いいんスか?」
「もちろん!そなたの家は俺の帰り道の途中と政宗殿に聞いておるしな!」
「ありがとう、幸村さん!」

荷物をかかえ直して幸村さんの横に並ぶ。

「うれしそうな顔しておるが、そんなにうれしいのでござるか」
「そうッスね。だってオレ、今なんか、ちょーうれしいんスよ」

幸村さんと同じ傘で帰れるのが、すごくすごくうれしかった。
それになんかなつかしかった。

「それは何よりだ!」

そう言った幸村さんも優しい笑顔だった。

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あきゅろす。
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