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古高 俊太郎
最終話
暫く歩いた所に在った甘味処で俊太郎さまの話を聞いて私は驚愕してしまっていた

さっきの濃密な口づけの余韻などまるで無かったかのように唖然と目を見開く事しか出来ない

話の内容は大体こうだ…

私が幕末時代にタイムスリップしていて、そこで見習い遊女として働いていた事
そこにお客様として来ていた俊太郎さまと出逢って星が流れるほどのスピードで恋に落ちていったという事

そして…私を現代に返した後、自分も知り合いからカメラを借り今この現代に今度は俊太郎さまがタイムスリップしてきたという事…

園生『…タイムスリップって…そんな…』
俊太郎『……わても驚きました…でも…園生がそない嘘を吐く娘やないゆう事は寄り添った時間のおかげで分かりますえ…だからあんさんをこっちに返したんや』
園生『………』
俊太郎『園生が覚えとらんでもわては覚えとります…あんさんの雛菊の様な大輪の笑顔を…お天道様のようにわてを日陰の中でも照らしてくれはった事も…』

テーブル越し繋いだ手に愛の音を乗せ、緩やかに絡めて慈しんでくれる指先

俊太郎『そんなあんさんが居たと云う未来をわては守りたかった…園生の笑顔が何時までもそのまま輝ける様にと…』
園生『…っ!』

どこまでこの人の愛しみは強いのだろう…
どれほどの覚悟と…どれほどの言霊が降り注げばこの人を…こんなに優しい人にするのだろう…

目頭が沸々と熱さを増す中、私は自然と口を開いていた…


園生『…俊太郎さま………私は……離れる時も……笑えていましたか?』

俊太郎『?!…』

…途端…
俊太郎さまの瞳の奥底から悲しみのソレの様な切なさや後悔の様な色が、流れる事の無い涙となって私の胸を息が出来ない位に締め付けていた

俊太郎『どないして忘れる事が出来ましょうか…あんさんは何時も笑顔でいてくれはった…差別無く皆に笑顔で…あの六角獄舎で拷問におうてた時も…燃える獄舎から助け出された時も…あんさんは兎のよに真っ赤にならはった瞳で涙を溜めたまま微笑んでくれはった…せやからわては……?!園生…』

この現代で再開した時と同じ位……それ以上に胸の鼓動が激しく魂を叫んで私はとめどなく涙を流していた

言葉になんて出来ない…言葉になんて出来る筈も無い…
ただ…笑っていたかったんだ…この人がどんな苦悩を抱えて居たのかなんてまだ思い出せないけれど、私はこの俊太郎さまを…きっと暗い闇の中でも支えて一緒に生きていたかったんだ…

園生『…そっかぁ…良かった…良かったよ俊太郎さま…』

貴方を…


俊太郎『…園生…』

園生『あっ…そういえば俊太郎さま?その…こっちにタイムスリップして来たのっていつ頃なんですか?……ってゆうか?!…逢える保証なんて…無いのに…どうして…』

そうだ…
必ずしもこの同じ時代に…ましてや私に逢えるかどうかも解らないのに……奇跡という名の偶然………?!


俊太郎『何べんでも教えたります…わてとあんさんが巡り逢うたのは必然や…奇跡と言う名の必然…すれ違うたりする筈がおまへん…何処に居っても何べんでも何べんでもあんさんを見つけて…わての天女はあんさんやと園生だけが愛しいと囁きます…園生はわての女や』

もう…何も聞こえない…

周りの雑踏も…人の目も…

聞こえるのは…ただ自分の胸の激しく脈打つ鼓動だけ…

ただ……

俊太郎さまの微かな沈香の香りと熱を放つ泣きそうに甘い甘い…唇の感触だけ…










最初で最後の恋に落ち…
二人の世界は……




日の光に照らされながら煌びやかに進み始める


―終わり―

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あきゅろす。
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