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藍屋 秋斉
C
置屋の近くに帰る頃には既に澄んだ空は朱色の衣を纏っていた

何も聞かず私の手を引き前を歩く秋斉さんの背中をぼんやり見つめながら思い切って言葉を絞り出す

園生『あ…秋斉さん…あの…黙っていて……ごめんなさい…』
秋斉『………何で…あんさんが謝るんや…』
園生『…きっと…ちゃんと秋斉さんに相談していたら、二度もあんな事無かっただろうし……それに……』
秋斉『………』

最初は秋斉さんに知られるのが恥ずかしいのと心配掛けたくなくて頑なに言い出せ無かったけど…私を助けてくれた時の秋斉さんの様子が頭から離れなかった

大事な…大事な大事な物に傷を付けられた様なそれを阻止出来なかった自分を攻める様な悔やまれる切なげな瞳…何時も涼やかな彼があんなにも必死に…あんなにも熱く…怒りを見せてくれていたから…

園生『秋斉さんに…大事にされていたのに私…迷惑かけちゃって本当にごめんなさい』

そう言い終えると前を歩いていた秋斉さんがピタッと止まり、握る手に力が入っていった

秋斉『…園生はんがわてに内緒にしとったその事を土方はんから聞き出した時にもっと…警戒しとれば…あんさんをあんな目に合わせずに…あんな痛々しい涙を流させずに済んだはずやのに…』
園生『秋斉さ…』
秋斉『わては後悔してるんや…あんさんのうぶな白い肌に付いた赤い傷跡に…それから嫉妬してやり切れなくて…あのままその場で園生はんを抱いてぎょうさんわての熱で痕を残して…わて以外の男が触れる隙も無い位にと………』
園生『っ!…』

彼の背中から放たれる私を想う言葉は、見せる事の無い涙となって私に甘い熱を注ぐ

痛い程心配して恋い焦がれてくれている秋斉さんの囁きは、言霊となって私の中に溶け込む

園生『秋斉さん…本当に…本当にごめんなさい……それと…ありがとうございます…』

そう言って私は繋がれた指先を絡める力を少し強め、そのまま秋斉さんの愁う背中に抱き付く

秋斉『?!』
園生『…私も秋斉さんに…あの痕を消し去っ……あ……秋斉さんの熱に塗り替えて欲しいです…』

そう言葉にすると…緩やかに秋斉さんは私の方に向きを変え、自分の身体の温度を移すみたいにその長い腕で私を抱き締めてくれた

背中と頭に回った手のひらが全部を包み込む
髪に触れている指先はゆるりゆるりと髪の毛を梳いていて、さり気なく耳の裏辺りをなぞり私の鼓動を確かめている

園生『秋斉さ……っ!……アッ!…』

最初は優しい物だった温度が段々とぞくりと熱が上がってしまう感覚になってゆく

秋斉『………』
園生『っ!…あ…秋…さ…?!…ンッ!』

梳いた髪の間から指先が首筋をなぞり背中側に優雅に滑り下ろされる

歯痒くて身震いしてしまうと秋斉さんはその薄い唇を耳元に当てこれでもかとゆうほどの妖艶さで熱を吹き込む

秋斉『……こないかいらしい唇から…こない艶の在る声色が漏れてくるやなんて…あんな怖い目におうたのにわてを只の男に落としたいんでっか園生はん?』
園生『?!そっ!そん…な事…』

その言葉に身体中の熱が沸騰し湯気を上げるように恥ずかしさが込み上げてくる
本当のところ、確かにあの男達が残した傷跡は思い出したくも無い程寒気のする感触だけど、大好きな秋斉さんからの感触には…どうしたって熱くならない訳がなく…私は翻弄されすぎてどうしていいのか解らなくなって眉尻を下げていると、くすりと弧を描いた唇が今度は柔らかな耳たぶを掻い摘んでいた

園生『ハァ!……アッ!…』

優しく口付けを落とされたかとおもうと、ギリギリのところで舌を覗かせた唇が耳の中をついばむ
ピリピリと電気が走り抜ける様に体が恥じらいと未知の熱に溶かされそうになってゆく

秋斉『…園生』
園生『やっ?!…あ秋斉さ?!…』

目眩を覚える程の妖艶さで追いやる彼に私はとうとう涙目になり、秋斉さんの羽織りの合わせを掴んだままへたり込んでしまいそうだった

秋斉『………ふっ…ほんにかいらしい子やあんさんは…いたいけな兎の様に涙目やのに…もっと…もっとと欲しがる顔をしとる…いけない子やね園生はんは』

力が抜けた私を抱きかかえ直すと、秋斉さんはくすくすとその優雅で美麗な笑みでまた私を翻弄しながらとどめの蜜を垂らす

秋斉『そんなあんさんに明日の夕刻迄休みをあげるさかいそれまで……わてといよし』

―続く―


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