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藍屋 秋斉
B

その瞬間…

スッと軽やかな涼しい風が傍らを横切ったかと思うと、次の瞬間には私の上に覆い被さっていた筈の男が宙を舞っていた

園生『…?!』
秋斉『…興醒めや…』

男達も余りに早過ぎて何が何だか分からないといった面持ちで交互に秋斎さんとひっくり返った男を唖然と見ている

男『っつ!…コノひょろっちい町人風情がぁ!……?!そうだ…おい兄さん…テメェも一緒にどうだ?』
園生『…キャッ?!』

途端にグイッと腕を男に引かれる

そしてまた…音も無く涼しい風が当たりを包んだ
すると、今度はさっきよりもあからさまに何かをはじく音が響く

秋斉『…汚らわしいお前達の手でこの娘に指一本…触れるな』
園生『秋斉さ…』

柔らかい京訛りが消えた彼からは…想像も出来ない程の怒りが静かに周りを覆う

次の瞬間には秋斉さんの腕の中に私は気付いたら収まっていて…

男『コ…ノ…優男がぁ!!』

みるみるうちに表情を赤らませ逆上した男達はこちらににじりよって来る
それを受けて秋斉さんは静かに私の肩をスイッと自分の背後に回すと、怯える耳元に安堵の音色を吹き込む
秋斉『園生はん、わてが居るさかい少ぉし待っとき』
園生『!!…はい!』

それからはまるで毒も持たない小さき蛇が、一滴触れれば地獄に堕ちるであろう猛毒と何者をも寄せ付けぬ牙を持つ大蛇の前に、抜け殻のような蛇達は打つ手も無くただ涼やかな風と一緒に倒れていくしか無かった




気が付くと…逃げ出す事もままならない男達がうずくまり呻き声を出している輪の中、一人…群青色の羽織りを軽やかに整え優雅に扇子をパタンと閉じる秋斉さんが居た

私はただ荒い息を整える為、胸元の着物をぎゅっと押さえ意識的に深呼吸を繰り返す

その様子を静かに見守っていた秋斉さんが少し平常心を取り戻した私を見計らってから、ゆっくりこちらに近づき眉根を寄せて乱れた前髪を梳くってくれる

秋斉『…大事ないどす…か……?!』

こめかみを通り抜けた指先が首筋をなぞった時、その指先はピタッと動きを止める

秋斉さんの視線の先には、赤みを帯びた小さな屈辱の痕が襟元から覗いていた

秋斉『………』
園生『あ………っ!!』
秋斉『あんさんの様子がおかしいさかい……壬生浪に……聞いとったのに…』

秋斉さんはその痕を壊れ物を扱う様に撫でると瞬間…消し去ろうとするみたいに綺麗な薄い唇を這わせた

園生『…アッ?!』

甘い感触にびくんと肌を震わせ秋斉さんを覗き込むと、憂いを含んだ瞳が上目遣いに私を捕らえ今度は悪夢を吸い取る様にそこを吸い上げる

園生『?!…アッ!…ん…秋…斉さ…』

あの男達の付けた嫌な感覚とは違う愛しい彼のソレは、未知で魅惑的な程に私を熱で追い詰める

秋斉『………っ!』

眉尻を下げ熱で火照った私の顔を見やる秋斉さんは首元に触れていた唇を離し、歯を食いしばって私の体を抱き締めてくれた

ハッと気付くと、何時もはひんやりとした彼の肌にはうっすら熱と汗が張り付いていた

…どれだけの心配を掛けてしまったのだろう
…私を探してどれだけ島原から走って来てくれたのだろう
…どれだけ私は…


秋斉さんに想われていたのだろう


途端に目頭が熱くなりぬるい雫が頬を伝う

ただただ優しい秋斉さんの胸に顔を埋め、私もその背中をぎゅっと抱き締め返していた

―続く―

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あきゅろす。
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