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藍屋 秋斉
<紅の熱>
まだ覚めやらぬ明け方の気温の中、何時もなら澄んだ小鳥の鳴き声でほんわかと目が覚めるけれど…

今日もまた…嫌な胸が締め付けられる様な悪夢が必死に目覚めようとする私の体を抑えつけていた

園生『…んっ……ファ…やっ!…苦し……誰か……誰…あ……秋…斉さ…助け…!…』
???『……ハン……園生はん』
園生『……?…?!…ハァッ!!ゴホッゴホッ…??あ…』
秋斉『どないしはった?!大事無いどすか?』
園生『…秋斉さ…ハァハァ…だ…大丈夫です、すみません』

悪夢から咳き込み混じりに身体を起き上がらせると、そこにはいつもの優しい温もりを纏った秋斎さんが少し心配して顔を覗かせていた

秋斉『……園生はん…最近よう眠れてへんのちゃいますか?なんや…何か悩み事でも抱えとるなら、わてで良ければ聞くさかいに話したったらええよ』

子供を思いやる様に頭を撫でられ、くすぐったい様な心配掛けて申し訳ない様な私は苦笑いを浮かべる

園生『はは…すみません…でももう大丈夫ですから…何か夢見が悪かっただけですから』
秋斉『………』

…あの日の事は…秋斉さんには云えない…
…絶対に知られたくなんてない
だって…あんなこ…と…未遂とはいえ……!

思い出した途端私の身体にみみずが這うような嫌な寒気が蘇る

園生『ハッ!…』
秋斉『園生はん?』
園生『な…何でもな…?!』

その時グラッと肩が引かれ、温かくてそれでいて涼やかな香りのする秋斉さんの胸の中に私は収まっていた

園生『あ…秋斉さ…』
秋斉『あの時の約束は覚えとりますな?』

…忘れられる筈がない…
初めて泣いてしまったあの日、彼に妖艶に呼び寄せられ胸にすがりついて泣きじゃくってしまっていた

だけど、いまでも恥ずかしいのと悪夢の原因を思い返すと素直に寄り添う事なんて出来なくて、ビクッと身体を離してしまっていた

秋斉『…おや…忘れてしもうたんか?』

おどおどする私を見やって、秋斉さんは左手で少し離れた私の頬をかするようになで上げ、うろたえる瞳を覗き込んで妖艶に呟く

秋斉『辛い時はいつでもわてを頼り…寂しい時はいつでも…おいで…園生はん』
園生『……っ!』

その優しさに直ぐにでも泣き出してその胸に飛び込みたかった…
…でも…

園生『…本当に大丈夫ですから秋斉さん!…って、もうこんな時間?!朝餉の準備しなきゃいけませんね!と…その前に顔を洗って来ます!』

そう言って私は頭のモヤモヤを振り払いながらせわしなく部屋を後にしたのだった










秋斉『……園生はん…』

―続く―


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あきゅろす。
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