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おさななじみ
幼馴染み/遊び人/おバカ/片思い
以上に引っ掛からない方はどうぞ



××××年△月○日
きょうはさくちゃんとあそんだ。ふたりでみつけたひみつのあじとだ。
だれにもないしょ。ぱぱとままにも。さくちゃんとこうきだけのひみつなんだ。
あしたもさくちゃんといく。
……
×××○年□月△日
今日は桜とぼくたちの家ぞくでゆうえんちに行った。いっぱいジェトコースタにのった。
でも桜はぬいぐるみに何回もだきついて大へんだった。
ぬいぐるみも桜をだっこした。みせい年しゃにたいしてほうりついはんだとおもう。
ぼくだって大きくなればぬいぐるみより大きくなって桜をだっこできる。
むかついたから桜のパパにぬいぐるみが桜にべたべたしてたと言ったら
ぬいぐるみはあとで知らないおじさんにおこられていた。ざまーみろ。
……
××◎△年○月▽日
今日は桜がバレンタインのチョコを持って来た。いちいち義理だと言う。
オレ以外にチョコをやる男もいないと思うとさみしいやつだ。お父さんにもあげてないらしい。
仕方がないから桜のチョコだけは食ってやるんだ。オレは優しいから。
桜のチョコを食ったら腹が一杯になったから、他のやつのは母さんに言って誰かにやった。
幼ななじみとしては、チョコを食ってやるのも仕事の一つだと思う。
……
××◇○年◎月×日
最近桜が生意気だ。今月に入って三人も告白されたと言うと、「バカ」と言って来やがった。
あいつは未だに男の一人も作れない奴だから、負け惜しみだ。
桜が頼んで来るなら幼馴染みとして俺が付き合ってやってもいいのに。
あいつはバカだから俺の良さがまだわからない上にお子様なんだ。
あんなんじゃ彼氏なんて作る事なく一生独身だろう。
……
××◇□年◇月※日
受験が近付いているというのに女からの告白が多くてウザイ。
桜の奴が突然志望校を変えたもんだから、今まで余裕だったのにもう少し偏差値を上げなくてはいけなくなった。
俺の都合も考えろと思う。この頃は桜のくせにこうして隠し事が多くなった。
先生から偶然聞かなかったら高校は別になっていたところだ。
相変わらず桜に男はいないから、勉強する暇があるんだと思う。
第一志望のK高は桜の成績だととっくに合格圏なんだと……
……
××△◇年▽月◎日
ムカツク。これも全部桜のせいだ。高校生になっても男の一人もいないくせに
桜は何故か同級生や上級生にも人気があるらしい。先輩が紹介しろとか言って来た。勿論断った。
桜はあのまま一生独身だろうから、幼馴染みの俺がしょうがないから嫁に貰ってやる事になってるんだ。
それなのにあのバカときたら今日は男と一緒に帰ってやがった。
友達だとか言っていたけど桜がバカだから男の下心に気が付かないんだ。
お互い友達と一緒に帰るんだからいいでしょとか言いやがって、だからしょうがなく俺に毎日引っ付いて来る女の子達じゃなく桜と二人で一緒に帰った。
俺の親切心がわからないなんて本当に桜はお子様だと思う。
あんなんであの男と一緒に帰っていたら何をされたかわからないってのに。
……
××△◎年※月◇日
桜に男が出来たらしいと母さんが言った。あいつにそんなのいる訳ないのに。
冗談だろと笑ったら、桜が知らない男と一緒に帰って来たとおばさんが言っていたらしい。
この前あれほど言ったのにあのバカはやっぱりわかっていないらしい。
明日になったらどうせ休みだしわかったと頷くまで説教してやる。
イライラする。あいつはどうしてああバカなんだ。
桜の為にこの俺が女も作らないでいてやってるのに、ちっともそれをわかってない。
どうせ男ってのも騙されてるに決まってるんだ。
明日だ。明日はとことん多い知らせてやる。



私と弘毅は所謂幼馴染み、フツーに言って腐れ縁て奴だ。
そんな男女が年頃ともなればロマンス的なものが生まれるのかも知れないが、しかしこの弘毅、如何せんバカだった、滅法思う存分バカなのだ。
精々顔がいいくらいで、後はもう目を覆いたくなる所の方が断然多い。
まず一つに成績はなんとか私に付いて来れるようにはなったものの、根本的に人間として非常識なバカだ。
人の感情の機微などまるでわからないし、自分がモテるのは自分の全てがいいからだと思っているし(実際弘毅をアイドル扱いしてる子達は殆ど他校の彼氏持ちだし、例えば弘毅が付き合ってやってもいいと言ったところで「えー、それはちょっとー」とか言っちゃうとご本人達自ら言っている)、客観的に物事を見るという事が出来ない自己中だ。
そのくせなんだか知らないが、彼氏のいない私をいつまでも格下の子供で自分がいなきゃ何も出来ないと思い込んでいる。
本当に、心底、真実に、どうしようもないバカなのだ。
小学生の頃弘毅は精々バレンタインにチョコを貰う程度だっただろうが、その頃私は同級生から上級生からあまつ下級生に至るまで告白を受けたし、バレンタインに義理チョコすらやってないのに何故かホワイトデーには弘毅の倍以上のプレゼントを貰った。
中学に入っても同じだった、そしてその頃から異常に弘毅は自分がモテるとありがちな勘違いをし出した。
弘毅に告白をする子は九割が「顔だけはいいし、連れて歩きたい」とか公言するような子達で、あとの一割も私に好きな男を取られたとか訳のわからない逆恨み。
何をしたいんだか弘毅はそのアレな子達を侍らし、私に見せ付けるようにしていつも上から目線で「どうだ俺はモテるんだ、このお子様め」と言わんばかりだった……バカだから実際言った事もある。
一部の子達には本当に私と弘毅の仲を疑われ大変迷惑した(あまりに弘毅が付き纏うもんだから教師からはニコイチ認識だ)。
このままでは高校まで持ち上がりだと危惧した私はこっそり弘毅では手の届かない志望校に突如変更した。
元々その進学校を薦めてくれていた担任は大喜びしていたけれど、しかし敵もさるもので受験日にはしっかり弘毅の姿もあった時には私はまるで不合格通知を貰ったかのように肩を落としたものだ。
とにかく昔からこうだった。
弘毅は何かというと私の後を付いて周り、幼い頃私が一人で見付けた秘密の場所にも付いて来て結局口実を作り弘毅に口止めをさせたり、遊園地に行ってキャラぬいと戯れようものならしつこく追い掛けて来て邪魔をしたり、バレンタインの意味がわかり出してからは私が弘毅にチョコをやらないとずっと拗ねたままでいると弘毅のお父さんとお母さんに必死で説得され根負けして思いっきり義理と書いた手作りチョコを毎年渡す羽目になったり、ただキャーキャー言ってるだけの女子を侍らせながら登下校もストーカーのように私と同じくしたり……頭痛くなって来た。
私が合格通知を受け取ったその日、家に上がり込んで来た弘毅が同じ合格通知をちらつかせながら「俺も合格した」と言った時にはよく流血沙汰にならなかったと思う。
あいつのバカで尻拭いをさせられるのはいつも私だというのに、バカときたら感謝の意も示さないどころか、私を生涯独身だと勝手に決め付けて「構ってやってるのは自分」だと思い込んでるのだ。
どうやったらそんな思考回路になるのかと考えるだけ無駄だ、何せ相手はバカなんだから。
高校に入ってからも弘毅は相変わらずバカだったけど、引っ付かせてる女の子の中には一人くらい真面目に弘毅を好きな子もいると信じ、出来る限り弘毅とは距離を置くように努めた。
何せ相手はあのストーカーバカで、毎日毎日センサーでも付いてんのかと思うほど隠れた私を見付けてくれやがったが、私が避けてるなんてこれっぽっちも思ってないからただこっちが脱力するだけだ。
こうなったらあのバカから離れるには堂々彼氏の一人や二人でも作るしかないと決意し、前々からアピールを受けていた男子と交流を図るべく一緒に帰ってみたりした。
そういえば前に弘毅が月に三人も告白されたとウザったらしく自慢げに言っていたけど(事実は「私弘毅君みたいな(顔の)彼氏が欲しいなあ」を弘毅が勝手に解釈したに過ぎない)、高校に入って私は四ヶ月で「とりあえずお友達から」を25人に要求された(最初の一人に「まだ彼氏を作る気はない」と言ってしまったが為の妥協策らしい)。
私自身の何がそんなにモテてるのかわからないけど、まあどう謙遜しても弘毅よりモテるのは明白だろう。
男子はまだいいとしても、困った事に今度は男子難に喘ぐ女子が「弘毅と桜は実は付き合ってる」と噂を流し出して魂が抜けるかと思った。
いい男なら紹介なり仲介なりしてやるから、私にあいつを押し付けるのだけはやめてくれと涙ながらに訴えそうになった。
まあそんなこんなで女子と折り合いをつけながら、私はそろそろまた彼氏の一人でも作るかと気分的にも思った訳だ。
弘毅のバカを何とかしたいという実に不純な動機で申し訳ないけど、むしろあいつから引き離してくれる人なら間違いなく惚れる自信がある。
しかしバカはやっぱりどこまでもバカだった、明らかに嫌がる私を一緒に帰っていた男子から引き剥がした挙句、ご自慢のファンの女の子達も置いてきぼりにして私を家に拉致したのだ。
その上「お前はお子様だから、男と二人きりになるってのがどんなんかわかんねえんだよ」とぬかしやがったよ。
どんなんかわかってるからこその行動なんですけどね。
それ以降手を変え品を変え、どれだけ弘毅から逃げようとしても奴はアンテナが立つように追って来る。
逃げても逃げても追って来る、一種のホラーだ。
もういい加減にぶち切れた私は強硬手段として高校のOBだった先輩に事情を話し、とりあえず弘毅を引き剥がしてくれたら本格的に付き合うと約束し、口上の彼氏となって貰った。
先輩は五つも上だし大人だし、空手の有段者で弘毅がトチ狂っても対処してくれるだろうと思ったから(同級生や一二個先輩にあのストーカーバカは荷が重過ぎた)。
…………しかし希望もさっき潰えたばかりだ。
大学帰りの先輩と落ち合って放課後デートの後家に送って貰うようになって、その日はまだ時間も早いし折角だからお茶の一杯でもと家に上げたところで災厄は降って来た。
突然弘毅が家に押しかけて来たと思ったら私が騙されてるだのなんだのと訳のわからない事を怒鳴り、先輩に食って掛かった所で呆気なく先輩に御縄にされた。
そこで逐一説明してやったわよ、今まで私がどれだけ告白されて来たのか、中学時代にいた年上の彼氏の事も(近くの塾講師だった所為で公言が出来なかった)、どこまでの付き合いだったのかも、弘毅に心配なんかして貰うような事は何もないという事も、そんでもってどれだけ弘毅が自意識過剰なんかって事も、全部ね。
そしたら今度はやっと理解したかと思ったとたんに泣き始めて。
離れて行くなって、桜は俺と結婚するんだろって、他の男のものになんかなるなって。
……先輩も流石に呆れて帰っちゃったわよ。
私も呆れ果てながらぐずぐず泣く大男連れて家帰らせて甘いカフェオレ作って男がそうメソメソすんなって宥めて。
したらばそこにまた偶に早く帰って来たらしい弘毅のご両親と会っちゃって。
息子はバカだけど見捨てないでくれって、桜ちゃんに見捨てられたらこの子一生こうやってぐずぐずして過ごすって、浮気以外の何でも許すからお金も出すから頼むから息子と付き合ってやってくれって。
それでお風呂入らせてご飯作って食べさせてご両親にはお酒勧めてちょっと前漸く寝かして、メソメソやって私の服を掴んだままだった弘毅もやっとの思いで寝かし付けたところ。
――正直脱力した。
家に電話掛けて事情を説明したら、「いつかこうなるんじゃないかって思ってた」と父の気落ちしたような声、それから「ごめんね私が口滑らしちゃって。でも弘毅君のママったら毎日のように桜の動向を探りに来るんだもの」と若干疲れの色を見せる母の声。
私は机の上に置きっ放しになっていたノートを一通り読み終えて、深く長く重い溜息をついた。
バカな弘毅。
あんまり昔からバカだから「にっきでもつけなさい」って言った私ですら忘れた言葉を十数年経った今でも律儀に守ってる。
毎回毎回、どの年もどの月もどの日も、弘毅の日記には私の事ばかり。
「あんたってどうしてそうバカなの……」
顔だけはいいし、間違った方向だけど根性もある、良く良く言えば一途と言えなくもないし、必死でやれば勉強に付いて来れない訳じゃない、運動神経だってそう悪くもない、……弘毅みたいなバカを本気で好きになってくれる子だってこれから現れないとも限らない。
こんな、長年一緒にいるだけの女なんて、得意の思い込みに決まってる。
そうでしょ?
本当に本当に幼い頃、私が分別も付かなかった頃にした、ありがちの約束を守る事なんてない。
もっと広い目で世界を見なよ、私なんかよりいい女なんてゴロゴロいるよ、あんただってその内自分を見直す事も出来るでしょ。
それを知った時、本当にあんたは私がいいって言うのかね?
「さく、ら……」
私の服をまだ握り締めたまま、私の膝を枕に泣き疲れて眠る顔は子供そのもの。
「バカタレめ」
だからもう少し、もう少しだけ待ってあげるよ。
あんたが大人になるまで、本当に自分の気持ちで好きな人を選べる日まで。
もう少しだけ、私はまたフリーで、待っていてあげよう。
幼馴染みとしては、まあ、これも仕事の一つだもんね。
そっと髪に口付けると、とたんにふにゃっと弘毅の顔が崩れて、私は思わず噴き出して笑った。



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