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10 NOvEL 05
交わる心。



不毛な恋?

そんなの、百も承知だ。


好きで好きで好きでたまらない奴が、野郎だなんて、どうかしてるよ。俺は。


だがどうしようもねぇ事実なわけで。
その事実を曲げることはできねえわけで。
かといって、告白する勇気もねぇわけで…


イライラして、人に当たってしまう。


…っああ、悪いと思ってるさ!
だがどうすりゃいい?!

どうしようもねぇよ!


偶然道端で逢えば決まって喧嘩。
売られたからには買うのが男だ。…いや、それだけじゃねぇ。ただ、あいつと話せるのが、嬉しいだけなのかもしれねえ。


そうでもしなきゃ、普段は話せねえから。


偶に、居酒屋で一緒になり、酒の力で他愛もない話をするときはある。

だが、それだけだ。



そう、それだけ。







『…』

『どうしたんですか?副長』

『…いや、なんでもねぇ。…煙草買ってくる。』

『はあ…あ、ならついでに万事屋の旦那のところ行って、依頼してきてくださいよー。』

『なっ…!んで俺が!!』

『電話しても繋がらないんですよ。屯所の屋根から雨漏りしてるんで、修理してほしくて』

『んなもんてめぇが行けばいいだろ!!』

『…はぁ…。副長。』

『…んだよ』





『いつまでも悩んでないで、はっきり云った方がいいんじゃないですか?…じゃあ、俺は仕事あるんで、失礼します』


『…っ!!山崎ぃいぃいい!!』





ついにあの地味男にまでばれる始末。
…いや、あいつも監察だ。そのくらいの目はあるのかもしれねえ。

そう、俺の好きな男とは、万事屋主人、坂田銀時である。


『雨漏り、か…』
















「万事屋」

堂々と掲げられた看板。

ついに来てしまった。



『…はぁ…』


5月末だが、真夏のような暑さに汗が滴る中、これで何度目かの溜め息。

吐く度に億劫になる。



『…行くか。』

一つの決断と共に、扉への階段をあがる。
カン、カン、と鉄の板が鳴る音が心拍の音と混じり、やたら五月蝿い。


緊張の中、深呼吸し、呼び鈴を鳴らす。

汗が、一滴落ちる。


奥から、足音。

がらっ、と扉が開くのと同時に、そいつの声

『はあい、どなた…って、あれ多串君。珍しいな、お前が来るなんて』


一瞬、驚いた顔を見せたが、その声はいたって平常。


『ああ、依頼だ。電話で済む内容だったが、何回電話しても繋がんねぇってんで、わざわざ来てやったんだよ』

『あー、そりゃ悪かったな。仕事で外出てて。』

『珍しいこともあるんだな』

『失礼な奴だな、おめぇは。』

『本当の事だろ。まあ良い。屯所の屋根が雨漏りしやがるから、直しに来い。以上だ。それじゃあな』


だめだ、当人を前にすると、言葉が出なくなる。
喉の奥でつっかえて、決心が鈍る。


『あ、待てよ。茶ぐらい入れてやるよ。詫びだ。この暑い中来たんじゃ疲れたろ。』

『っ…!!』

『んだよ、いらねえか?』

『…マヨ入りな。』

『へいへい』



まさかこいつから誘われるとは思わなかった。
少し、嬉々としている自分が恥ずかしい。
硬めのソファに座り、万事屋を待つ。この時間がもどかしい。



『あいよ、待たせたな。』

『…この熱ィ中、ホットかよ!!』

『はいはい、すみませんね。冷たいのがなくてね〜』



ずずっ、と音をたてて啜る。
余計に暑い。

その音を最後に、沈黙。

なにを話すでもなく、ただ無駄に時間が過ぎる。
暑さと、現状で、気が狂いそうだ。



『…隊服じゃねえの、珍しいな。』

『…へ?』



そう云って、俺の着流しを指差す。



『いつもあんなかっちりした服着てたから、なんか意外だなあと思って』

『あ、ああ。出る時に着替えてな。私用も兼ねてたし』

『ふうん。…なんか、やらしい』

『…はあ?』



頓狂な声が上がってしまう。なにを云っているんだ、男に対して。



『そんなに胸板見せて。変な気ぃ起こしたやつが寄ってくるよー?』

『何云っ『例えば、俺とか』



机越しに対面していた人物が、ずいとこちらに近づく。
背もたれに両手をつき、逃げられない。


『な、に…』

『土方くんさあ、誘ってる風にしか見えねえよ?』

『っ…なわけ、ねえだろ!どけ!!』



やめろ、やめてくれ。
勘違いする。



『やだ。どかない。…なあ、土方。』


『んだよ…』

『お前、俺のこと好きだろ?』



思考停止。
何を云っているのか、わからない。

好き?誰が?俺が?万事屋を?
バレてた?



『〜〜〜〜〜!!!!!!!』


顔の体温が上昇する。きっと、真っ赤になっているに違いない。



『あーれれ?真っ赤だよ?図星?』

『…気持ちわりいだろ…。男が男を好くなんて。…どけ、帰る。』



猛烈な、虚無感が俺を襲う。
嗚呼、バレた。否、バレていた。

ひた隠しにしていたこの心が。
自分から、云うつもりだった。だが…こんな形になるとは、思いもよらなんだ。


俯いて、涙を堪える。



『…どかねえよ。両思いなのに、どいてたまるかってんだ。』

『…い、まなん、て?』

『両思い、だよ。土方。俺も、お前と同じ意味で好きだ』

『嘘、だ…』

『嘘じゃねえよ。俺は、お前が好きだ。土方』



既に至近距離だった顔が、どんどん近づいて、唇があたる。
触れるだけの、優しい口付け。


柔らかいそれが離れた途端、涙が決壊した。
見られたくないので、顔を逸らす。



汗と一緒に流れるそれの意味を、俺は知られたくなかった。

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あきゅろす。
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