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10 NOvEL 05
愛おしい人 R-15



就職難のこのご時世に、なんなく一流の会社に就職して早半年。

最近、ある方向から執拗に視線を感じる。




『土方くん、この書類かたしておいて』




きっちりとしたスーツに似合わない銀髪と口に咥えた飴が目に付く男。
俺の一つ先輩にあたる、坂田銀時。

今どき古風な名前だからすぐにその男のことは覚えた。


ふてぶてしいながらも成績は社内でもトップで、与えられた仕事は難なくこなしていく
人望も厚く上司にも後輩にも好かれている

それが一見みたその男の姿。




その優秀であらせられる坂田のデスク方向からねっとりと嘗めるような視線がここ数ヶ月送られてくる。


ちらりとその方向に目を向けると視線は逸らされ、何事もなかったかのごとく仕事を続ける坂田の姿が窺える。


「なんなんだよ・・・あいつ」


別に何かされるでもなく、嫌味を云われるでもなく、見つめられる日々が続いた。




そんな日々が続いていたある日。
帰宅するために乗っていた電車内のこと。
不意に下半身へ意図的に触れる手が現れた。


「チっ・・・痴漢かよ」


馴れきった手つきでスラックスを開け、下着の上から自身を撫で回す。
男に痴漢されているなんて到底いえない。


「黙ってやり過ごすか・・・」








『ッ・・・ふ、』


思う存分撫で回した後、下着の合間から直に触れ始める。


「こいつ、うまッ・・・い・・・」


既に硬くなった自身が外気に触れ、痴漢にあっているという緊張感のためか、先走りが相手の手を濡らす。

厭らしい水音が俺の耳に纏わりつき、離れない。


『ァ、は・・・っ』


必死に抑える喘ぎも、すばやく扱かれると大きくなっていく。


『ん、ンン・・・ッッ』






『おい、おっさん。痴漢とかそういうの良くないと思うよー?』




絶頂に達しそうになったその時、俺の目が銀髪を捕らえた。


『あんま抵抗しない方がいいよ?見苦しいから』


冷たい目で痴漢を睨みつける。
昼間、社内で俺に向けられる目とは全く別のもの。


次の駅へとまり、駅員へそいつを受け渡すと、坂田と二人きりになった。



『あの・・・坂田先輩・・・有難う、御座います。』

『え?ああ、いいよ別に。いいもの見れたし』

『・・・へ?』


その顔は、笑っていた。


『真面目な土方君の淫乱な顔が見れたしね』

『なッ!』

『ちょっとさ、会社戻ろうよ。どうせ今の時間残業してる奴なんてうちの会社には居ないでしょ。』

『なん、で、ですか?』

『いいから』


すばやく手をとられ、反対側のホームに止まっていた電車へ乗り込む。
会社のある駅まで4駅。その間、ずっと手を握られていた。



深夜3時をまわった社内には警備員の人しかおらず、『ちょっと忘れ物をしてしまったので』と無理をいい開けてもらった。




部署へと到着し、明かりをつけたとたん、坂田がいつも使用しているデスクへと押し倒される。


『な、にすんだッ・・・』

『土方くんさ、俺の視線に気付いてるんでしょ?じゃあ解るよね?』

『っ・・・』


俺だってそこまで鈍いわけじゃない。その目が、何を語っているのかは直ぐにわかる。


『俺さ、土方くんのこと好きなんだよね』


案の定、坂田の口から出てきたのは好意を伝える言葉。


『・・・・なんで、俺なんだ?』

『一目みて、可愛いなって思ったから』


いつものふてぶてしい表情とは打って変わった真剣な目が、俺を射抜く。



―――顔が、赤くなる―――


『俺は・・・男だぞ?』


顔を背けながら坂田に告げた。

多分、この数ヶ月で俺もこいつのことが気になっていたのだろう。
坂田に告白されたとき、不思議と嫌気がしなかったことに気付いた。



『うん、そうだね。』

『俺で、いいのか・・・?』

『土方くんじゃなきゃ、嫌だ』



その言葉と共に、唇が触れ合う。

優しい、優しい、口付け。


本当に愛おしげに、俺の顔に手を添える。


『ねえ土方くん・・・』

『「くん」づけすんな。』

『じゃあ土方?』

『・・・却下』

『なんでッ?!』





『下の名前なら呼んでもいい』





『まじでかッ!?・・・じゃあ、十四郎・・・・



 愛してる』


『・・・・・そーかよ』

『十四郎は?』

『・・・』


坂田に向かって手を拱く。

近づいた顔の耳元で告げてやる。









             『愛してる』       






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