D.G
Livin' on a prayer 4
跪いて再び祈りに戻ったモヤシを前に何故か立ち去れず、俺は熱心に祈るモヤシを横から眺めていた。
奇異の目で見られることも少なくない白髪は蝋燭の灯りを受け特定できないほど様々な色に輝き、サラサラとしたその影が白い顔に落ちる。『色が無い』ということの寂しさと美しさに神田は言葉を失った。
閉じられている瞳や寒さの為に血の気のない頬や唇のために、まるで精巧なビスクドールのような美しさだった。
「――― ナニ祈ってんだ。お前」
ふと呟いて、自分で驚く。
何で俺がモヤシのことなんか聞かなきゃなんねぇんだよ。
バカじゃねぇの、と思いつつ、モヤシの返答を待った。
何だ、この違和感。
まるで俺がモヤシの機嫌を伺ってるみてぇじゃねぇか。
「…そんなこと。貴方には関係ないでしょう」
冷めた声が白い唇から漏れた。アレンは顔を伏せたまま、目を開けようともしない。
いつもはケンカ腰で、うざったいくらいの態度で接してくるが、コイツのこんな冷めた声は聞いたことがなかった。
ドクッと心臓の拍動が耳の奥で響く。
さっさと出て行けばいいものを、神田はアレンの予想外の反応に動けなくなった。
なんなんだコイツ。普段と全く態度違うじゃねぇか!
そもそもリナリーが言い出しやがったんだ、居場所さえ教えれば後はリナリーがメシ食わせるなり勝手にすんだろう!
顔を伏せて祈りの体勢のまま、アレンに動く様子はなく、神田は持ち前の短気でその場を後にしようとする。
しかし、何故か気になる。
放っておけばいいのに、普段の自分ならそうするのに。
なんなんだ、という軽い混乱にも似た感情が神田の頭を支配した。
「―― おい、モヤシ。」
気のせいだ。きっと気のせいだ。
そう、思った。
「リナリーが探してた。さっさと戻れ」
気のせいだ。そう思ったし、頑なにそう思おうとした。
いつもの調子を崩してモヤシのことを気遣うようなことをしてるのも。
ますますイライラするのも。
―― コイツが俺に全く興味を示さない度に、心臓が鈍く痛む気がすることも。
カチッという小さいが耳に障る音がした後、突如オルガンが鳴り出した。
誰か来たのかと咄嗟に扉の方を見るが、誰の姿もない。
教会に寄りつかない神田は知らないことだったが、0時を迎えた為にオルガンの自動演奏が始まったのだ。
祈ったまま神田に注意を払おうとしないアレンと、自分の感情が常ではないと感じている神田に賛美歌が降る。静かな古い教会の、二人に。静かに、厳かに。
静かな教会で賛美歌を聴くのは気分が悪かった。
アレンと一緒だと思うと尚更。
神田は聖職者とは思えないほどの不遜さでそんなことを思っていた。
チラリとアレンを見るが、彼は相変わらず関心を示さない。
オルガンの自動演奏が終わり、耳が痛いほどの静寂が戻って来る。
もう置いて行くかと、踵を返そうかと思っていると、今まで微動だにしなかったアレンが緩く動いた。
「……わかりました。戻ります」
いきなりそう言ったアレンに神田は驚いて其方を見た。今まで何も言わなかったから、反応が返ってくるとは思わなかったのだ。
アレンはそんな神田の心理など恐らく気にせず、立ち上がろうと身体に力を入れる。
その瞬間、アレンの身体がグラついた。
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止まってしまった時と、いつまでも続く祈りと。
2007/02/16
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