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D.G
Livin' on a prayer 7






「―― な、に 言ってるんですか」

さっきまで、全く温度を感じなかった声が揺れた。






「神田、任務で頭でも打ったんですか?」
「―― 否、」
アホか。誰がそんなヘマするか。


「コムイさんに変な薬でも飲まされたとか?」
「違う」
確かに、この教団にいるかぎり、コムイの被害に遭わない人間は少ないが……的外れだろう……、ソレは。


「ラビと喧嘩でもしたんですか? それとも、罰ゲームで嫌がらせとか?」
「違う」
あの馬鹿兎と喧嘩して誰がおかしくなるか。
ってか、後半の『罰ゲーム』って何なんだよ。


「じゃあ、冗談? ティムを使ったドッキリとか?」
「違うな。……それで全部か?」


思いっきり呆れを含んだ口調で返してやると

「………」

今まで、勢いよく紡がれていた言葉が急に止まった。
問いように神田の瞳を見つめていた銀灰がすっと伏せられる。

その途中の、瞼を閉じ切る前の、目。
睫を縁取る銀色の長い睫が、銀灰色の瞳にかかる。その、影に、瞬間に、やけに引き付けられた。



抱き締めたまま、沈黙が落ちる。
アレンは顔を隠すように伏せて、顔を上げる様子はない。かといって神田に身体を預けるような仕草も無かった。
二人は、あくまでも、神田が抱き締めている、という状況から脱却していない。


白く輝く細い髪にそっと鼻を埋めると、先刻感じたにおいが鼻を擽る。
どこか鄙びた匂い。


――― これは……此処の匂い、か。
彼から感じるのは、古い建物特有の、におい。ここはは蝋燭やら何やらで教団の中でも独特の匂いがたちこめていた。
ってことはコイツ今日一日此処に篭ってやがったな。



頑なだった先刻の様子から見るに、昼に廊下で会ったのは、おそらくティムが無理矢理あそこまで引き摺って行ったからだろう。
ぐーだらで悪名高い彼の師匠が作った割には、託された主人を慮るよく出来たゴーレムだ。
……違うか。
あの創造主だから、アレンにティムキャンピーを与えたんだ。
かなり捻くれた表とは違って、彼なりにアレンを可愛がっているのだろう。
……非常に分かりにくい愛情だけれど。
与えられる愛情が乏しくて、その貴重さと価値をきっと誰より分かっているからアレンはティムキャンピーを大事にする。その彼とティムの愛情に報いる為に。


見た目の人当りの良さと礼儀正しさとは裏腹に、異常なまでに意固地なところがアレンにはあるけれど、きっと彼らを無駄に心配させることは本意ではないから。ティムに引き摺られて、渋々出てきたのだろう。



アレンが黙ってしまってからというもの、会話らしい会話はなかった。
かと言って、互いを温めあう恋人のような甘い空気などというものはない。
神田が抱き寄せてもアレンが身体を寄せてくる仕草は一切ないし、身体の間に入れられたその腕の力はちっとも抜けていない。


さっきの会話だって、可愛げなどと云うものは無かった。
なのに、である。
なのに『今』に対して自分は苛立っていない。
少なくとも、彼を突き放さない程度には。
抱き寄せても、身体を寄せてくる仕草は一切ないし、身体の間に入れられた腕の力はちっとも抜けていないのに。
珍しく、此方が心配を露にしても、全くいつもの反応を彼が示さないのに。


それでも、


それでも苛立たないのは、どうしてなのだろう。



その答えは、どこになら、ある?






「――― オイ、モヤシ」

そこで神田は考える事を放棄した。
その理由を考える事さえも後回しにした。
めんどくさい。今の神田の心境はこの一言に尽きる。
考えたって解決しないなら、うじうじ悩むより出来る事をするべきだ、というのが神田の考えだった。
とりあえず、先ずは食事を摂らせるべきだろう。
神田達のような装備型と異なり、寄生型のアレンは消耗が激しい。この大飯喰らいが昼から何も食べていないとなると、身体が限界だろうと神田は検討をつけた。
そうして、先刻まで囚われていた思考から逃れる。



「話は後だ。とりあえず、来い。」
「……? 何処に行くんです?」
ワンテンポ遅れて声だけが返ってきた。

「食堂だよ。食堂。どーせ何も食ってねぇんだろ」
「……なんで、   知ってるんですか?」
「いいから行くぞ」
「あっ、ちょっと」
抱き締めていた身体を開放し、神田はアレンの手を取った。
振り払われるかと思ったが全く抵抗はなく、神田は内心ひどく安堵した。






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あと数話終わります(たぶん)。upするかはわかりませんが。


2007/06/25

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あきゅろす。
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