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長い読み物
きっかけ


「…はーえーーー…」

「ちょっと審神者様!何をそんなぼーっとしてるんですか!こっちですよ!」

「う、あ、ごめんなさい!」

今日から私は審神者になる。

人手が足りないらしく、スカウトされたのだ。

こんなぼけーっとしてる私がどうして審神者になるのか?霊力だかなんだか言っていたっけ…
思うことは色々あるけど、とりあえず政府の言う通りにしておけばいいかな?

「さて、審神者様、この本丸についての説明はある程度事前に受けてますね?」

足元の管狐が見上げてくる。
この子は政府から支給されるナビゲーターのようなものらしい。
最初この子のことを管狐さん≠ニ呼んだら、私の名前はこんのすけ≠ナす!って怒られたっけな…

「あ、せ、説明?うん、大まかには、聞いたかも…です…」

まぁ、この会話を聞いて分かるかもしれないけれど、私は見事なまでのコミュ障です。
なんでこんな私に審神者を頼んだのか。政府は謎である。

「さて、この本丸を運営するにはまず刀剣男士が必要ですね。」

「あぁ…はい…」

緊張で喉の奥がきゅっとしまる。

「最初の一振はこちらがご用意致します。5種類用意しましたので、好きな刀剣一振お選びください!」

緊張で声が出ない。

「…ぁ、…ぇっ…」

酸欠気味になりながら刀を一振り手に取る。
黒い鞘…ということしか覚えていない。

「審神者様、落ち着いて、霊力を込めるのです。」

「…」

緊張しまくっているが、震える手で刀を触り、霊力を込める。

すると眩い光の後に桜吹雪が舞って…

「山姥切国広だ…なんだその目は、写だというのが…?」

目の前にいた綺麗な男の人は山姥切国広と言うらしい。

でも私に聞き取れたのはそこまでだった。



ーーーー


暖かい霊力の中。やんわりと体を引かれるような感覚がした。
審神者。これから自分の主となるものが来たのか。

桜吹雪の中。ゆっくりと目を開けて自己紹介をする。

「山姥切国広だ…なんだその目は、写だというのが…」

そこまで言って視界から審神者が消えたことに気付いた。

「主?」

「審神者様!?」

俺が主を見つけるよりも早く、そばに居た管狐が駆ける。

「何で主が倒れてるんだ…?」

「恐らく過度な緊張によるものでしょう。ひとまず本丸内に運んでください!」


ーーーー


「…」

頭がぐわんぐわんする…ここどこなんだ…


「目が覚めたか。」

低い声が部屋に響く。
声のした方に目を向けると、ボロ布を深くかぶった刀剣男士(?)がいた。

私はというと緊張で声が出なくなっていた。

「…」

喋れずにいる私を他所に、こんのすけへと目を向ける刀剣男士。
確かやまんばぎりと言っていたかな…聞いたことない名前だ。

「審神者様、目覚めましたか!本丸内の説明…は、また後日にしましょう。疲れましたもんね」

そう言うと、さっと姿を消した。
こんのすけなりの労り方なんだろう。

でもね、こんのすけ。

「(彼と二人きりはまずいですよ!!)」

気まずい、気まず過ぎる。
彼も喋らないし、私も喋れないし、どうしろってんだ

「…」
「…」

これは、この空間はちょっと無理だわ…

「(別の部屋に移動するか…)」

すっと立ち上がって廊下へと出る。ほかの部屋を探そうとした時、背後から人の動く気配がした。

「(まぁ、いくら物だと言っても今は人型だし、動くぐらいはするよね。)」

気にせずに廊下を歩く。

…おかしい。

「(足音が…)」

足音が二人分聞こえる。

さすがに気になって振り返ると、さっきの刀剣男士が着いてきているではないか。

「(いや、あなたから離れるために移動してるんだけども…)」

それを伝えようにも、私の喉は震えてくれない。

「…あの、主」

刀剣男士が遠慮がちに口を開いた。

「なるべく、一人で移動しない方が…」

私の身の安全を考えているのか?一応主だしなぁ…そういう大事意識がインプットされてるのかな。

「(でも、1人になりたいし…どうしよう。)」

待っててとか、待機とか、そういう類のジェスチャーってどうやったらいいんだろう…

あ、そうだ。確か刀剣男士の本体は刀だと言っていた気がする。

そう思った私は彼に近付いて、腰に差している刀に手を伸ばした。

「主?な、何をするんだ?」

彼は私が主だから一切抵抗はしなかった。

彼の腰から刀をとってそれを床に置く。

本当はちゃんとした置き場所があるんだろうが、私にはそんな場所知らないので直置きする。

そして待っててのポーズのように掌を突き出す。

「………ここで待ってろってことか?」

彼が言った声にひとつ頷く。

「(いや、寧ろ今はずっとそこにいて下さいお願いします、なんでもしますから。)」

なんでもするとは、言ってない

「いやでも主…………俺が写しだからか…」

写しとかよくわかんないけどとりあえずそこに居てくださいお願いします。

「(待ってろや)」

もう何だか埒が明かない気がしたので彼は放っておいて、私は駆け足で廊下を進んだ。

後ろで私を呼ぶ声が聞こえるけど、何も聞こえないデス。

「(声さえ出てれば、彼は納得してくれたかな。)」

未だ緊張していて震えない自分の喉を片手で抑えると、ひとつ咳込み、ため息のような空気を漏らした。

「(いつになったらこの緊張は解けるのだろうか。)」

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