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長編
04. もう一つの旅

〜数十年後〜

ある日プロイセンは少年と共に会議室に居た。

「お前もそろそろ気付いてんだろ?」

プロイセンはどかっとソファに座り机に足を乗せる。

「………」

「瀕死の状態から剣を振り回せるまでに回復したんだぞ?普通は不思議に思うはずだ」

「………」

「それに出会ってからもう何十年経っている?
なのにお前は少年のままだ」

相手はそれでも黙っている。
プロイセンは姿勢を正す。

「前例が無ぇから俺も確信は持てねぇが…」

すぅと息を吸い一息置き続けた。





「お前は国だ」





じっと少年を見据える。

「火傷の痕は消えてるし潰れた喉も治ってるはずだ」

そう言ってプロイセンは少年の包帯を解き鏡に映す。



そこには消えたはずの神聖ローマの姿があった。


「何か喋ってみろ。声も出るはずだ」

少年は恐る恐る口を開く…。

「お、俺は……」

勢いよくプロイセンを見る。

「プロイセン!!」

目をキラキラと輝かせる。

「良かったじゃねぇか」

顔だけじゃねぇ、声も変わってねぇな…。

プロイセンは微笑み頭を撫でる。




「嘘みたいだ…喋れるなんて…」

「当たり前だろ」

「だ、だって医者はもう喋ることは出来ないと…」

「俺達国は普通の人間じゃねぇからな。良くある事だ」

「良くある事…?」

「心臓に剣が突き刺さっても死なねぇんだぜ?格好良いだろ」

プロイセンは親指を立て心臓に当てて得意のドヤ顔をする。

「まぁ、死ぬほど痛ぇし気絶はするけどな」

ケセッと笑う。
その笑顔に少年もつられて笑顔になった。




そして突然プロイセンの顔から笑顔が消えた。
ピリッとした空気が漂い少年も自然と笑顔が消え緊張した面持ちに変わる。

「プロイ…」

「何度も言うがお前は国だ」

少年の声を遮るようにプロイセンは口を開く。



「国ってのはそれを必要としてくれる奴がいねぇと存在しねぇ。
お前がここに存在している理由は…分かるよな?
誰だか分からねぇがそいつらは必ずいる」


少年が初めて見たプロイセンの真剣な眼差し…。


「本当は今すぐにでも正式に国にしてやりてぇんだがそれは無理だ」

「俺は国なんだろう…?
『正式に国』とはどう言う事だ?」

「周りの奴等がお前を国として認めねぇと国にならねぇんだ。
それに…」

「それに…?」

「まだ早ぇ」

「早い…?」

「今この辺は領邦国家でゴチャゴチャしてやがるし俺様も強いとは言え、あの坊ちゃんと比べるとまだまだ小せぇ存在だ。
お前を護れる自信がねぇ。
お前を死なせない為にはこれが最善だ」

「そうなのか…」

「すまねぇな。
それとお前が国とバレないよう、今まで通りに接する。
分かったか?」

「あぁ…」




「そういえば自分の顔や声で記憶は戻ったか?」

「いや…戻っていない…」

プロイセンはうーんと少し考え、

「もしかしたら記憶は戻らねぇのかもしれねぇな」

その一言でどんな反応を示すかチラリと少年を横目で見たが特に変わった様子はなかった。


「何とも思わないのか?」

「俺は国なんだろ?
記憶が戻らないという事はその記憶はきっと俺が国として生きるには不必要なものなんだと思う」

「達観してるな」

「こんな容姿でも数十年は生きているからな」

「人間と同じ年月しか生きてねぇくせに良く言うぜ」

プロイセンは冗談混じりに言い足を組む。


「人間と同じと言っても半世紀以上生きているんだ」

少年は苦笑いをする。

「あぁ…もうそんなに経つんだなぁ…」

「そうだな…」

「時が経つのは早ぇな」

「何百年も生きてるプロイセンからしたら一瞬だろうな」

「お前って生まれたばっかのくせに本当大人っぽいよな」

「そうか?」

「言動だけじゃねぇ、雰囲気まで大人っぽい。
まぁ、俺がお前くらいの時はもっと格好良かったけどな!」

「あぁ、そうだな。
プロイセンの武勇伝は嫌という程聞いた」

少年の目から一瞬光が消え、声に抑揚が無くなった。
俗に言う棒読みと言うやつだろう。

しかしプロイセンは気付いていない。

「また話してやるぜ!」

「お願いだから話す時はちゃんと話してくれ。
プロイセンの話は好きだが個人の感情が入り過ぎて内容が分かりづらい」

少年が溜息をつく。

「俺様の格好良さが分かればそれで良いんだよ!」

「そうだな。
また聞かせてくれ」

少年ははにかんだような笑顔を向ける。
釣られてプロイセンの顔も笑顔になる。




それから暫くしてプロイセンが口を開いた。

「それとお前が国と分かった以上名前を付けなきゃならねぇんだが…」

「今の名前じゃダメなのか?」

「それはお前の人間としての名前だろ?
国になるんだったら別の名前の方が良いだろう」

「そうなのか…」

「で、前から考えてたんだがDeutsches Kaiserreich (ドイチェス・カイザーライヒ)って言うのはどうだ?」

「Deutsches Kaiserreich…。
ドイツ帝国か…。
うん!恰好良い!!
流石プロイセンだ!」

「だろ?」

目を輝かせプロイセンを真っ直ぐに見つめる。
プロイセンもその蒼く透き通った瞳を見つめ返した。



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