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エシホ学園の日常

「・・・守人炯太?」
駸邪はその名前を聞いた瞬間、顔をしかめる・・・が、キャリンが眉間にしわを寄せ始めたのに彼は気付いて、無表情に戻す。
「・・・申し訳ありませんが・・・私は守人炯太ではなく・・・守人駸邪です・・・。・・・その者は・・・私の双子の兄です・・・。」
「双子の兄?・・・あぁ、道理で目以外、似てるなぁと思ったら・・・。」
優は駸邪の顔を見ながら、納得したような表情をする。
対して、彼は゛なぜ、兄の名を?″と疑問を持つ。
「遅いぞ、優。」
そんな時、彼らの後ろから声が聞こえる。駸邪達は振り向くと、そこには先ほどベンチに座っていた少し髪が茶色がかっている黒いボサボサ頭の男が優をキツく睨むような形で見ながら立っていた。
「あ、拓人、ごめん。」
「この方があなたが話しておりました、執事?」
「うん、名前は里森拓人(さともり たくと)。今はこちらの事情があって、言葉を崩しているけどね。」
「里森拓人だ、よろしく。」
拓人は自身の焦げ茶色の瞳にキャリン達を入れながら、軽く一礼する。
それに対し、キャリンとレムは礼を返さずに自己紹介する。その時、優が三人の挨拶が終わるのを見計らい、明るく元気な表情で拓人に声をかける。
「拓人。このキャリンさんの執事、炯太君に似てない?実はこの人、炯太君の双子の弟なんだって。」
そう言われた拓人は駸邪を睨む形で見る。そして、すぐに゛道理で似てると思った″と呟く。
すると、駸邪は相手の睨んでくる表情に怖じけずに無表情で質問する。
「・・・なぜ、兄の名を?」
「炯太君はね。拓人の『柔道』の特待生に認められる為に相手になった人なの。」
「・・・兄さんが?」
駸邪は初耳だと言わんばかりにしかめた表情で言う。すると、拓人が゛柔道ではなんとか勝ったがな″と言う。
駸邪はそれを聞いて、『柔道』の審査の為に彼の兄である炯太が試合の相手をしたという事に気付く。そして、拓人の体つきをよくよく見ればガタイが良く、体が大きいといういわば柔道体型。駸邪はなるほどと納得する。
すると、キャリンが空気を変えようとしたのかすました表情で口を開く。
「ユウはそこの執事のおかげで特待生なんですの。ちなみに、カリンも自身の特技の『舞』で特待生になっておりますわ。」
「いえ・・・特待生と言っても、そんな大した事ではございません。」
キャリンの言葉に謙遜を示す花凛。そんな主の意図を察したのか、駸邪は彼女に質問する。
「・・・花凛さんは・・・『エシホ芸術祭』には・・・『舞』で・・・参加されるんですか・・・?」
「えぇ。私にはそれしかありませんから。キャリンさんは『絵』で『エシホ芸術祭』に参加されるようですが、執事であるあなたも?」
「・・・い」「そうですわ。」
駸邪が否定しようとした瞬間、キャリンが花凛の言葉を肯定する。
それに対し、彼は極力顔を崩さないようにしているが、目を少し見開いていた。
「私の使用人であるメイサもシンヤも『エシホ芸術祭』には『絵』で参加する予定ですわ。ねぇ、シンヤ?」
駸邪はすぐにキャリンの目を見る。只今、主の表情はニッコリと笑っていて、瞳からは妖しく゛逆らっちゃいけないわよ?″と伝わる。


駸邪は背中で汗を多量にかいていた。なぜなら、彼は絵を描けない。そして、実力は常人より下手。猫や犬を描こうものなら別の生物に生まれ変わってしまう如くに。それぐらい下手なのである。
そんな実力で『エシホ芸術祭』に参加できるか?いや、できない。
そのまま、参加するものなら笑い者になるのは火を見るより明らかであった。
ちなみに、キャリンは駸邪の実力を知らない。だから、当然描けると思っている。そして、駸邪は主であるキャリンの言う事を聞かねばならない上に、今ここで肯定しなければならない。うやむやにするのも可能だろうが、第三者がいるこの場所ではできない。なぜなら、この執事は主の言う事を聞かないと思われるからだ。
駸邪はどうしようか、頭をフル回転させる。その時、彼は思いつく。これなら、大丈夫だと。


「・・・はい。・・・私も・・・書かせて頂きます・・・。風景画を・・・。」
「風景画?」
花凛はその言葉を聞くと、興味津々なのか目を輝かせながら聞く。ちなみに、キャリンは怪訝な表情をしていた。
「・・・はい。・・・私は・・・街並みや自然等を描く・・・趣味がありまして・・・今回に当たって・・・皆様にご披露しようかと・・・。」
「よろしいじゃないですか。風景画を描けるなんて凄いですね。」
花凛はにこやかな表情でそう言うと、キャリンは誇らしげに顔をすませる。


駸邪が思いついた事・・・・・・それは文字通り、゛風景画を描くこと″。彼は人物画等は描けないが、風景画なら描ける。理由は駸邪はダン・ノールの下で修行している際、敵地視察の時、何かの理由でカメラが使えなかった場合の手段として紙にそっくりそのまま書き写すという事をやった。だから、それに関係して風景画だけは上手く描けるのだ。素早く上手く細かに。よって、それを『絵』という事で゛エシホ芸術祭″に臨む事はできるのだ。


花凛はニコニコとしながら、駸邪に『絵』に関して質問をする。


「では、どこの風景画を描くのですか?」



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