[携帯モード] [URL送信]

エシホ学園の日常
素朴な美
「失礼します。」
フェネ生徒会長が赤い布の上にいる着物姿三人に声をかける。
それに気付いたのか・・・三人は彼女に向き、生徒会長達が自分達に近付いてくるのを知る。
そしてフェネは、後ろに黒髪を纏め頬に緩い皺が入った、白い帯で締めた藍色の着物を着た人に一礼する。
「授業中、申し訳ありません、草葉先生。このお二方が『茶道』を初めて見るので、案内しようと来ましたが、お時間は大丈夫ですか?」
「えぇ、いいですよ。ちょうど、最後のお茶入れになりますので。それでは、空いている席にどうぞ。早乙女さん、追加の方、お願いします。」
「わかりました、先生。」
フェネの提案にニッコリとした表情で先生は承諾すると、そのまま釜の近くにいる紅の帯で締めた焦げ茶色の着物を着た早乙女という女性にお茶の用意を促す。
それを受けた彼女はほんわかとした印象を与える返事をした後、お茶入れの準備をする。
キャリンとレムは見たことないお茶道具に目を釘付けにしながら、フェネと共に赤い布の上に座る。そして、彼女達が座り終わった所を見計らって、草葉先生がキャリン達に座ったまま向き直り、深々と一礼する。
「ようこそ、おいでなさいました。私、『茶道』の教科を受け持っています、草葉喬子(くさは きょうこ)と申します。そして、こちらが『茶道』の生徒の八月優(やつき ゆう)さんとお茶点てをしているのが早乙女花凛(さおとめ かりん)さんです。」
「は、はじめまして、フランス貴族のキャリン・ゴイルでございますわ!」
「わ、私の名前はレム・ヘマト、イギリス貴族よ!」
先生の対応に思わず別の世界に入り込んだような感覚を覚えながら、二人も相手の所作を真似して、深々とお辞儀をする。すると、草葉はコロコロと笑みを溢す。
「そこまで為さらずとも良いのに。面白い後輩を持ちましたね、フェネ生徒会長。」
「えぇ、お二人とも、まだ日本の文化に慣れ親しんでおりませんので。」
フェネがそう答えていると、早乙女が生徒会長に和紙に乗せた金平糖を差し出す。次に、お椀に入った抹茶を彼女の前に置く。
それをフェネは手で金平糖を掴み、口の中に含む。そして、お椀を持ってそのまま柔らかい薄ピンク色の唇につけて飲む。
キャリンとレムはフェネの所作をじっと見ていると、彼女達の前にも金平糖とお椀が置かれる。
それに二人は顔を見合わせ・・・と言っても、キャリンがレムを見下ろす形となるが、お互いの表情を見た後にフェネの真似をする。
二人は金平糖の甘さを感じつつ抹茶を飲み、菓子と茶が口の中で混じ合わさる美味しさを堪能する。
一度に飲み終わったキャリンとレムは茶碗を自分の前に置くと、草葉がその柔らかい印象を持たせる黒い瞳でもって微笑みながら見ている事に気付く。
「どうでした?『茶道』を体験されて。」
「・・・・・・最初はなんて甘過ぎるお菓子かと思いましたが、このお茶を飲む事によってそれが緩和され美味しく頂く事ができましたわ。」
「抹茶は苦いお茶として知られていますが、甘いお菓子と苦いお茶を一緒に頂く事によりそこに美味しさが生まれます。塩と砂糖を合わせると美味しいという原理と同じです。」
「それに、あなた方には私達西洋人には無い゛美しさ″がございますわ。凄く素朴で目立ちませんが・・・・・・・・・何かそこに煌めくものがありますわ。」
「・・・ヘマトさんもそう感じましたか?」
キャリンは目を少し見開き感動を覚えているような表情で言うと、草葉は顔をにこやかにしたままレムに質問する・・・彼女もまた感慨にひたったような状態で口を開く。
「・・・・・・何か・・・頂いたお茶からは味の他にも違うものを受けたような感じで・・・・・・あなた方の所作から優しさを受けたわ・・・。」
「それが『茶道』というものです。゛迎える側の者が真心を尽くし、お客人におもてなしする″。それがなければ、『茶道』が成り立ちませんから。」
草葉がそう言うと、二人は先生のニッコリとした顔をまじまじと見つめる。
自分たちには無い美しさ・・・・・・・・・それを忘れないように目に焼きつけるか如くに・・・・・・



7/40ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!