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エシホ学園の日常
天秤
[嫌です。]
駸邪は即答で断る。
それもそのはず。キャリンをよく知っている者なら駸邪に限らず、他の人もこの話をされたら嫌がる。
[・・・なんでだ?]
だが、グランは駸邪の返答に表情は変えずとも声からして驚いているようだった。
[なんでも何も嫌です。]
[・・・俺はキャリンの希望通りにさせたいんだが。]
[師匠の都合なんか、知らないです。ともかく、私は絶対に嫌です。]
駸邪は露骨にキャリンの執事になることを断る。
だが、無理もない。
キャリンのあの゛性格″を考えたら、誰もがこの話から逃げるだろう。

そもそも、キャリンの性格というのは、一言で言い表すと『わがまま』。
しかも、『マリー・アントワネットの再来』という二つ名を持つほどだ。
その異名はフランスの貴族内では誰もが知っており、彼女の粗暴の話は有名である。
その話で最も人に同情されたのが『雨事件』。
ある晴れた日、キャリン・ゴイルは貴族の友達の誕生パーティーに行きました。
その誕生パーティーは昼の三時から始まり九時に終わったのだが、その帰ろうとした時にどしゃ降りの雨が降りました。
その友達の屋敷からキャリンが乗ってきた車がある駐車場までは十分ほど歩く。
友達はキャリンに傘を貸そうとしたが、当のキャリンは自分の傘でなければ嫌だと言い出す。
だけど、彼女の傘はない。
キャリンの友人は傘を貸そうと一生懸命説得していると、彼女からこう言い出す。


[傘が無ければ、代わりに人を傘代わりにすればいいじゃない!]


そう言い出すと、早速その友達の家の男性の使用人に対し、自分の傘になれと命令する。
もちろん、言われた人達は嫌がります。
ですが、強行策でキャリンが外に出ようとする。
それを友人が彼女が濡れないようメイドに傘をさすよう命令し、使用人達がそうしようとするとキャリンから゛その傘は嫌だ!!″と言われる。
友達は迷う。このまま無理にでも傘をさしてあげたら、あそこの貴族は客人が嫌がる事をするとキャリンに言いふらされる。
かと言って、そのまま外に出しキャリンを雨に濡らさせると、今度はあの家は外の天気がどしゃ降りの中、客人を平気で門外に出すと言われる。
二つとも、家名に泥を塗る行為だった。
だから、友人は決意する。
使用人に人間傘になってもらうことを。
その後、その家の男性の使用人達はほどなくキャリンの為に傘になる。
その光景は彼女の左右に三人ずつ人がいて、一人二組でキャリンの上にちゃんとくっついた状態で使用人三人が仰向けになりながら担がれていた。
結果、いくら密接にくっついていてもどうしても隙間があるから、キャリンは多少濡れてしまう。
その事を車で帰る間際に彼女の為に傘となった使用人達に対して、罵声を浴びせかける。
貴族である私を濡らすとはと。
後日、キャリンは友人のその判断を快く受け止め、他の貴族に自分の友達の家は客人を大切にしてくれると褒めて、友人は家の家名に泥を塗らずに済んだことに安心する。
だが、傘にされた使用人三人共、風邪を引きその家を辞めたのであった。
この話を聞いた人達はこう同情する。
雨さえ降らなければ、そんな事にはと。
次に、最も人をドン引きさせた話なのが『人形事件』。
ある日、キャリンがショッピングをしていると本人曰く胸にズキューンときた人形があったという。
それを同じ種類なのに全部、買おうとしたら店主から他の人も買うので一つにして下さいと説得される。
その時、キャリンはこう言った。


[好きな人形が無ければ、自分で作ればいいじゃない!]


そう言い、お金を残して人形は全部持っていったという。
しかも、数日過ぎると部屋中に飾っていたその人形達を飽きたという理由で廃棄処分行きとなる。
これを聞いた人達はこうドン引きする。
同じ人形なんて作れないし、捨てるなら他の人にあげろと。
他にも酷い話はあるが、ここで割愛する。

そんな話があるから駸邪は嫌なのだ。
もし執事になったら、そんなわがままを四六時中聞かなければならないといけないから!
[・・・分かった。では、こうしよう。キャリンの執事になってくれたら、今後俺はお前に対し養子の話はしない。どうだ?]
グランの提案に反応する駸邪。
[今後、一切私に養子になれと言わないんですか?]
[あぁ、言わない。]
[絶対?]
[あぁ、絶対に。]
グランの返答に彼は悩む。

なぜ駸邪はこう執拗に聞いたかと言うと、ゴイル家の養子になるようしつこく来たからである。
何度も何度も何度も何百回、何千回と断っているのに。
挙げ句の果てには、去年駸邪とキャリンを無理矢理許嫁にされそうになり、日本に逃げたら追いかけてきた。
だから、駸邪はこう考えていた。
日本に帰っても、養子になるようしつこく来るだろうなと。
だが今、キャリンの執事になってくれたら、養子の話は一切しないとグランの口から出る。
駸邪の心は揺れていた。


最長で三年のキャリンの執事。

グランが亡くなるまで、ずっと養子の話を振られる。


この二つを天秤にかけ、グラグラと揺れる。そして
[・・・わかりました。]
ふぅと息をはき、静かに言う。
[キャリンの執事、お受けいたします。]
執事になる方に傾いた。

こうして、不憫にもキャリンの執事守人駸邪が生まれたのだった。



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あきゅろす。
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