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エシホ学園の日常
二人のお嬢様
「・・・なぜ執事になった・・・か・・・。」
龍虹にそう質問された駸邪の顔は無表情・・・だが、内心はかなり困っている。なぜなら、駸邪はつい先日に執事になったばかり。しかも、その理由が・・・゛キャリンとの結婚をしない代わりに三年間彼女に仕える″というグランとの約束からきている。
駸邪はこの理由を話すかどうか迷う。
なぜなら、質問してきた相手は自分と同じ執事。同業者に、しかも真面目にやっている人にこの理由は失礼だから、駸邪は言うのを躊躇っている。
だが、質問されたからには答えなければならない。
駸邪はどう答えようか考え、すぐに思いつく。
「・・・キャリンお嬢様の・・・お父様が・・・キャリンお嬢様の事を・・・私にお願いされたから・・・執事になりました・・・。」
駸邪は゛元々″の理由を話さず、結果的になった事を龍虹に言う。・・・少し曖昧であるが。
龍虹はそれに興味を持ちながら聞き、自身の黒い瞳の中に駸邪を映しながらまた質問する。
「そのお父様っていうのは駸邪さんにとって恩人なんですか?」
「・・・うん。・・・俺に大剣の使い方を・・・教えてくれたからね・・・。」
「大剣の使い方?」
その言葉に龍虹は怪訝な表情をする。
駸邪はなおも無表情のまま答える。
「・・・俺は幼少からフランスで・・・サバット・・・大剣の使い方・・・銃の使い方・・・をそれぞれ・・・三人の師から学んだ・・・。理由は興味を持ったから・・・。ただそれだけ・・・。」
駸邪の自身の説明を受けた龍虹は納得するように頷きながら
「あぁ、それで『戦闘』の教科を受けているんですね。」
「・・・そういう事。・・・そういえば・・・龍虹の方は・・・なんで執事になったの・・・?」
最初の質問を今度は駸邪からすると、龍虹は茜色に染まった空を見上げ、昔を思い出すように語りだす。
「・・・私も駸邪さんとはまた違いますが、お嬢様からお願いされたんですよ。・・・幼少の頃に。」
「・・・幼少という事は・・・レムも幼かったよね・・・?・・・唐突に指を差されて・・・゛なれ″って・・・言われたの・・・?・・・例えば・・・使用人だった親と一緒に・・・主の家に行った時とかに・・・。」
駸邪の質問に龍虹は手をブンブンと振りながら、否定する。
「いえいえ、違いますよ!それに私はそういう家の生まれではありませんし!」
「・・・そうなんだ。」
「えぇ、そうですよ。・・・あれは・・・・・・私と姉さんが香港の路上に住んでいた事でした。」
「路上って・・・・・・道の真ん中かよ!?」
シヴァが驚きながら言うと、龍虹は苦笑いしながら続ける。
「えぇ・・・・・・元々、私は孤児院出身なんです。物心ついた時はもう孤児院にいて・・・・・・だけど、寂しくはありませんでしたよ?兄弟達はたくさんいましたし、私の親ともいえる方もおりました。その方は中国拳法の使い手で、体は鍛えなければならないという理由で私は翻子拳を老師から学びました。あ、老師というのは私の親代わりをしてくれた方です。」
「・・・その時に・・・武術を習ったんだ・・・。」
「はい。それで、そんな孤児院に住んでいたんですが・・・・・・」
今まで笑顔であった龍虹の顔がだんだんと曇り、哀し気な表情になる。そして、ゆっくり口を開き



「・・・老師が老衰でなくなったんです。」



「私が物心ついた時からご老体であった老師は私が七歳になった時に老衰で亡くなりました。当時、老師は何歳だったかは最後までわかりませんでしたが、家に飾られておりました写真から当時の事を色々教えてくれました。その中には日清戦争の写真もありました。ですから、長く生きておられたと思います。そして、老師が亡くなった次の日、いきなり知らない大人の人達が来ました。この土地は俺達の土地だから出ていけと。今、思えば地上げ屋だったと思います。訳も分からない私達は孤児院から追い出されました。そして、兄弟達はその時に四散しまして、私と姉さんだけになったんです。」
「・・・大変な目に合ったんだな。」
シヴァは切なそうに龍虹を見る。それがどれくらい辛かったか・・・シヴァは分からなかったが、自分にとって精一杯の言葉をかける。
龍虹は無理に笑顔を作り、それを受け止める。
「えぇ・・・・・・それで、その後、私と姉さんは路上生活しました。当時は二日間の路上生活でしたが、その二日間何も食べれませんでした。ただひもじくて辛かったです・・・・・・そんな時、路上生活三日目の時にレムお嬢様に会いました。最初はレムお嬢様から話しかけてきてくれたんです。私達を心配してくれて。それで事の事情を話しましたら、レムお嬢様が言ってくれたのです。゛私の執事とメイドになりなさい″と。その言葉が私達にとって、どれだけ救われたか・・・。だから、私にとってレムお嬢様は命の恩人なんです。」
「・・・そうなんだ。」
駸邪は最初から最後まで無表情のまま話を聞いていたが、龍虹の事を聞いて感動を覚えていた。

奇跡的にレムに会えた事に。でなければ、もしかしたら路上で野垂れ死んでいたかもしれないから。

駸邪はそれを思いながら、同時にレムを見直していた。

駸邪の主であるキャリンと喧嘩した所やあの上から目線の喋り方を見るに、わがままな性格だと思えた。
だが、本当は心優しい女の子。

駸邪はそれを沁々に感じながら、キャリンもそうであればと思うのであった。



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