エシホ学園の日常
ノブレス・オブリージュ
駸邪とシヴァが森に入った頃、キャリンとメイサの二人はというと･･･
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「それでは、『貴族の生活』の授業を始めさせて頂きます！」
艶があり腰まであるナチュラルテイストのブラウン色の長髪を振りまきながら、ベージュの色のスーツを着た女性は『貴族の生活』を学ぶために集まった生徒達を黒いハーフフレームの眼鏡のレンズを通して、自身の穢れのない茶色の瞳で見渡す。その中には、キャリン、メイサの二人の姿もあった。
二人がいる場所は学舎の二階にある右側に位置するホール。
人が百人ほど入れる所である。
床はフローリングで一つの壁全体には鏡があり、その他の装飾等は室内の真ん中に複数のテーブルと椅子があるのみであった。
女性は鏡がある壁側から部屋全体に広がっている生徒達を見る。
･･･全員正真正銘、本物の貴族。
女性は心の中で゛例年と比べたら、少し多くなった″と思いながら、口を開く。
「まず、私の自己紹介をします。私の名前はシビル・カイン。新入生の皆様方には今日から私が貴族としての振舞い、心構え。メイドには貴族である主の仕え方をお教え致します。」
シビルはそう言うと、おもむろにカツンカツンと前に歩き出し、言葉を続ける。
「まず、皆様に知ってもらいたいのは貴族の在り方でございます。そもそも貴族というのは、初めは国にとって力を持つ者、国からでなく元から領地を持っていた豪族の事を゛貴族″と呼んでいました。ですが、近世に入ると王権が強化され中央集権化が進み、支配地を失った貴族は宮廷貴族という簡単に言いますと国の官僚になって王の役人や軍事的、政治的功績があった者が新たに貴族に任命されるようになりました。例としてイギリスでは現在の貴族の大部分はこの時期に新たに任命されたものです。そして、現在では貴族というのはもはや肩書きでしかなく特別な権利は持っていないです。ですが、昔からありますある権利は残っています。それは゛ノブレス・オブリージュ″。通称゛持てる者の義務″゛高貴なる義務″と呼びます。これは簡単に言いますと、一般的に財産、権力、社会的地位の保持には責任が伴うことを指します。今は権力、社会的地位はないに等しいですから財産に当たりますが。この言葉の概念自体は新約聖書の福音書に記されております、゛すべて多く与えられた者は、多く求められ、多く任された者は、更に多く要求される″に当たります。昔は貴族は普通の人と違い、財産も権力もありましたから社会的貢献はしなければならないと考えられておりました。これは強制ではありませんが、もししなければ社会的批判・指弾を受けることはしばしばあったようです。今では主に富裕者、有名人、権力者が社会の模範となるように振る舞うべきだという社会的責任に関して用いられています。そして、今現在でも貴族であるあなた方にもこれに当たります。将来、財産を受け継ぎ、ある者は官僚として、ある者は事業の責任者として活躍される事と思います。メイドはただ主の世話やお客様の接待をするだけではダメです。メイドも主がしている仕事を理解し、緊急時の際は手助けができるようにならないといけません。私の『貴族の生活』の学科はこの゛ノブレス・オブリージュ″の思想に近づけるよう、お教え致します。では、手始めに本日の内容は゛動作″をお教え致します。皆様の肩書きは『貴族』なのでありますから、家名を汚さないようしっかりとした動きをしなければなりません。では、一人ずつ名前をお呼びしますので呼ばれたら私の前に来てください。では――」
室内では一人名前を呼ばれ、その生徒がシビルの前に行く。そして、先生から動きの指示をされ、それをやる･･･というのを繰り返される。
もちろん、間違った動きをした生徒は注意される。
ある者は歩いた時点で注意されたり、表情を指摘されたりもする。
自分の名前が呼ばれるまでその光景を見ているキャリンは自信があるようにほくそ笑む。
なぜなら、『貴族』としての動きは物心ついた時からその道の先生に厳しく指導された。キャリン自身もプライドが高かったゆえに外に出て家名を汚さないよう一生懸命その教えを聞いた。だから、指導した側が間違っていない限り゛動作″は自信があるのだ。
メイサはいつものように笑顔でシビルから注意されている生徒を見ているが、彼女も物心ついた時からメイドとしての゛心構え″や゛動作″をその道に精通している義理の母親から指導されている。
だが、彼女は自信はあるも自身に驕る事なく注意されたらされたでそれを吸収しようと臨み、名前を呼ばれるのを待つ。
そんな自信はあるも心の中での゛姿勢″は違う二人。
似ているようで似ていない、主と使用人の姿がそこにあるのであった。
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