[携帯モード] [URL送信]

エシホ学園の日常
メイドの気転
チュン・・・チュンチュン・・・


小鳥の囀(さえ)ずりを聞きながら、駸邪は燕尾服を着て身支度を整える。

執事の朝は早く、主人が目覚めた頃には全て準備が整ってなくてはならない。

駸邪は部屋を出ると、既にそこにはメイサが立っていた。
「おはようございます、シンヤ。」
「・・・おはよう。・・・そしたら・・・お目覚めのコーヒーを・・・用意して・・・お嬢様に・・・お渡ししよう・・・。」
「わかりました。」
彼女はそう言うと一度自分の部屋に戻り、扉を閉める。

(・・・コーヒーを作る・・・道具があるのは・・・メイサの部屋か・・・。)

駸邪はそう思い、待つ。
少し時間が経つと、ドアが開きメイサが台車を押して出てくる。
その上には器の上に真っ黒い液体が入ったコーヒーカップがあった。
他には、角砂糖が入った小瓶と小さいスプーンを乗せていた。
執事は準備が整った事を確認したら、コンコンとキャリンの部屋の扉をノックする。
「・・・失礼します。」
駸邪はそう言って、ドアノブに手をかけ回し、開ける。

お嬢様の部屋は十二畳の広さで、正面には窓。
奥の右側には本棚が置かれてあり、その前には円いテーブルと一つの椅子。
扉側の壁の両側にタンスがあり、奥の左側にベッドがあって、その上にキャリンがスヤスヤと寝ていた。

駸邪はそのまま窓の所に行き、閉められていたカーテンを開ける。
すると、日光が部屋に入っていき、キャリンの顔を照らす。
そこでようやく朝と気付いたのか、う〜んと光に眩しいのか目を擦る。
そして、目をゆっくりと開け始めた。
「・・・おはようございます・・・お嬢様・・・。お目覚めの時間です・・・。」
「・・・コーヒーは?」
「お嬢様、こちらに。」
メイサが台車を押して、キャリンの前に出す。
お嬢様はジーッとコーヒーを見つめていると
「・・・朝食は?」
「・・・えっ?」
駸邪はキャリンのその一言の意味が分からず、つい顔をしかめる。
「申し訳ございません、お嬢様。朝食は食堂でないと食す事はできません。」

キャリンがまだフランスにいた時は、目覚めのコーヒーと共に朝食が運ばれていた。
だが、今いる場所は学園。
調理場がないゴイル家の部屋は食堂に行かないと食事ができないのだ。

「・・・それでは、コーヒーだけという事なんですの?」
「申し訳ございませんが、その」「クッキーはないんですの?」
「・・・申し訳ございません・・・お嬢様・・・。朝食がありますので」「別に、わたくしは大量のクッキーが食べたいと言っているわけではございませんわ。ただ、コーヒーと一緒につまむ程度のものが欲しいと言っているんですの。」
「・・・申し訳ございません。・・・今日は・・・ございませんので」「用意できないと言いますの!!」
お嬢様の怒声が部屋に響くが、二人は対して驚かずに
「・・・申し訳ございません。・・・明日は・・・ご用意致しますので・・・今日は」「ないんなら」「お嬢様。」
駸邪の言葉をキャリンが遮るが、次にメイサが口を開く。
「申し訳ございませんが、本日はクッキーはございません。用意できなかったのは、ちゃんとシンヤにご実家でのお嬢様の生活を伝えなかった私の不手際でございます。明日からはクッキーをご用意致しますので、代用としてまず先にコーヒーを飲まれ、その後にミルクコーヒーにされて飲まれたら、同じ味は続かず気分もリラックスできますが、どうでしょう?」
「・・・メイサがそう言うなら、そうしなさいですわ。」
「かしこまりました。ミルクの準備を致しますので、少々お待ちください。」
メイサはそう言って一礼した後、部屋を出てドアを閉める。
「・・・先に・・・お飲みになりますか・・・?」
「そうしますわ。」
キャリンの了承を得た駸邪は小瓶から角砂糖を二つ取り出し、コーヒーカップの中にポチャンと入れ、それを小さいスプーンでかき回しながら
「・・・お嬢様。」
「なんですの?」
「・・・なぜ・・・お嬢様は・・・メイサの意見をよく・・・お聞きに・・・なられるのですか・・・?」
彼は昨日の執事になった報告の時や食堂の件を思い出しながらそう言って、スプーンを置きコーヒーをキャリンに手渡す。
彼女はそれを受け取り、コーヒーカップを持って少し口に含んだ後、器に戻す。


「・・・お母様との約束ですわ。」



13/54ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!