今日は何の日 2(主総受け) 3月3日(土) 学生寮、ラウンジ。 はじまりは美鶴の1言だった。 「そういえば、今日は雛祭りだな」 本を読みながら突然美鶴がそう言った。 「3月3日……あ、そういえば…」 「懐かしいです、子供のときはお雛様飾るのが楽しみでした!」 「ま、俺たちには関係ないけどな〜…」 「そうですね、雛人形ってちょっと不気味で僕苦手です…」 ゆかりが思い出したように呟くと、風花は懐かしみ、しかし興味なさげに読んでいる雑誌から顔を上げずに順平が答えると、天田がコロマルを撫でながら言った。 ちなみにラウンジにいるのはマニキュアを乾かし中のゆかり、パソコンをいじる風花、読書中の美鶴、雑誌を読む順平、プレイヤーで目を閉じて音楽を聞いている玲、テレビを見ているアイギスとコロマルと天田。 真田はトレーニングだと言ってランニングに、荒垣は食材の買い出しに行っている。 「桐条先輩は雛祭りやったことあるんですか?」 「桐条先輩ともなると、なんかすごそう…」 ゆかりの言葉に苦笑しながら、美鶴は栞をはさみ本をテーブルに置いた。 「そんな大層なものではないさ。お父様が用意してくださった着物を着て、一緒に雛人形を飾ったくらいのものだ。そのあとに一緒にひなあられを食べたりしたな。」 そう話す美鶴は穏やかな笑みを浮かべている。 風花とゆかりが雛人形何段だろうね?などと話していると、 「…あの、」 声の主はアイギスで、いつの間にかテレビから美鶴たちに視線を向けていた。 「ん?どうしたアイギス」 「いえ、その…」 「?」 何か言いよどむアイギスに、美鶴は優しい笑みを浮かべて先を促す。 するとアイギスは意を決したように、しかし淡々と話し始める。 「…先程から美鶴さんたちがお話している、"雛祭り"とはなんですか?」 「……そうか、アイギスは知らないのか」 「…はい。せっかく皆さんが楽しそうにお話しているのを邪魔したくはなかったのですが……」 そう言うと、アイギスは下を向いてしまう。 そんなアイギスに美鶴は優しい声音で、 「謝るようなことじゃないさ、知らないままでは嫌だろう?そんなに気を遣わなくていいんだぞ」 「…はい、ありがとうございます」 美鶴の優しい言葉にアイギスは顔を上げ、微笑みを見せる。 アイギスも感情表現が豊かになってきたな、と感慨にふけりそうになったのを自分で止める。 「雛祭りというのは、3月3日の桃の節句の行事でな、雛人形というのを飾って女子の健康を願うんだ」 「…なぜ女子だけなのですか?男子はどうするのですか?」 「男子には5月5日にこどもの日というのがある。その日は鯉のぼりを飾り男子の健康を願う」 「…なるほどなー」 美鶴の説明にアイギスは納得したように何度も頷く。 するとゆかりが、 「ね、桐条先輩!雛祭りやりませんか?実際にやったほうがアイギスも分かりやすいだろうし!」 嬉々として話すゆかりに美鶴は頬を綻ばせ、 「そうだな、たまにはこういうのも悪くはない」 最近はタルタロスに通いっぱなしで、このような平凡なこともそういえば、と忘れてしまうほどだった。 それではいけないと、そしてアイギスに色々なことを教えるため、美鶴は賛成した。 すると順平が読んでいた雑誌を閉じ、ソファーから立ち上がるといまだに自分の世界に没頭する玲の肩を揺すりながら、珍しく気を遣った発言をした。 「そんじゃあ俺らはお邪魔っすね」 「僕、コロマルと散歩でもしてきますよ」 天田も続いて立ち上がる。 コロマルが玲の足下にすり寄ると、音楽を聞いているうちに眠ってしまったのだろう、眠そうにその瞼を開く。 2、3度まばたきするとむ〜と唸りながら緩慢な動きで目をこする。 その様子に順平と天田は苦笑する。 その時背後で女子勢が何やら話し合っているとも知らずに…… 「適当に時間潰しとくんで、終わったら携帯に…」 「いや、どうせなら皆でやろうじゃないか」 順平が言い終わる前に美鶴がなんとも美しい微笑みとともに言い放った。 その笑顔は他の人が見れば見惚れるほどに美しい笑みだが、なぜか順平は寒気を感じた。 「と、言うわけで結城」 いつの間に近付いていたのか、美鶴がまだ半分夢の中にいる玲の肩を力強く掴む。 「……?」 すると玲はまだ眠そうな目で辺りを見回す。 と、目の前には微笑みを絶やさない美鶴。 その後ろには楽しそうに微笑みながらこちらを見守る風花とゆかり。 隣には何かを目で訴える順平と明後日の方を向いてコロマルを撫で続ける天田。 (……何かあったな…) そのただならぬ雰囲気にさすがに何かを感じ取り、玲は立ち上がろうとした。 が、美鶴に肩を掴まれたままなので虚しくもそれは叶わなかった。 「どうした結城?私の話はまだ終わっていないぞ…?」 「あ…すみません……」 あまりの迫力に気圧されたのか、何故か謝罪の言葉が口から出た。 そしてそのまま美鶴に引きずられて2階へと上がっていった…。 「結城…すまん……」 順平はただただ、われらがリーダーの無事を祈るしかなかった……。 約30分後… 「待たせたな、みんな」 なんとも晴れやかな笑顔で、しかし何か興奮を抑えているような美鶴が軽やかな足取りで降りてきた。 「先輩、どうでした!?」 「まあ落ち着けゆかり。ほら、早く降りてこい」 「いや…裾踏んづけそうなんですけど…」 そう言いながら降りてきた玲は、 「うわあ…!」 「すごい…」 「ブリリアントだろう!」 なぜか十二単を着ていた。 桐条グループの黒スーツに手を引かれながら、結城が足下を気にしながらゆっくりと階段を降りてきた。 (…なるほど、だから黒スーツたちがでかい荷物抱えてたのか……) 順平はようやく納得がいった。 そう、実は美鶴が玲を引きずっていった僅か数分後、あの黒スーツがなんとも大きなバッグを持って寮にやってきたのだ。 黒スーツとは顔見知りなので特に気にすることなく美鶴は部屋にいる、と通したのだが……。 まさかこんなことになるとは…。 玲はどこか疲れた顔をしている。 そりゃあ十二単なんて着せられているのだから疲れないほうがおかしいか。 しかし女性陣はそんなことはお構いなし、玲を取り囲んできゃいきゃい騒いでいた。 「結城君可愛い……写真撮っていい!?ていうか撮らせて!!」 「似合い過ぎでしょ…って風花ズルい!!あたしも撮らせて!!」 「お前たち、ここは私が先に撮るべきだろう!?さあ結城、撮るぞ!!」 「素敵であります…」 何やらおかしなことになっている…。 ここは親友として助けなければ…!と順平がソファーから立ち上がった瞬間、 寮の扉が開いた。 「帰ったぞ」 「ん?何の騒ぎだ…?」 またこのタイミングでややこしいのが…!! 順平は内心頭を抱えた。 学園でもそうなのだがこの学生寮でも、結城玲という人間はもはやアイドルを通り越し、スターのような存在だ。 寮生からは当然のごとく好かれており、中には特別な感情を抱く者もいる。 その特別な感情を抱く者の中には、今帰ってきた真田明彦と荒垣真次郎も入る。 真田は当然のごとく分かりやすい性格なのですぐに分かったが、荒垣はなかなかによく見ていないと分からなかった。 だがよく見れば、何かあれば彼に構っていたのでなんとも分かりやすかった。 結局は似たもの同志、ということだ。 そんな2人が今の彼を見たら…!! 「おい、こりゃあ何の騒ぎだ?」 「美鶴、何かあったのか?」 そんな順平の気持ちもお構いなし、2人はずんずんと美鶴たちの方へと近付いていく。 そして、 「む、明彦か。いや、今日は雛祭りだからな」 「雛祭り…?雛人形でも飾ってんのか?」 「そのほうがどれだけ良かったか…」 涼しいながらも落胆した声に美鶴たちに埋もれている蒼を見つけた。 「そこにいるのは結城か?」 「あ?んなとこで何やって…」 真田と荒垣は、見てしまった。 色鮮やかな十二単に身を包む、我等がリーダー、結城玲を。 「「!!!」」 「どうだ、ブリリアントだろう!」 「僕よりもアイギスとか岳羽とか山岸とか美鶴先輩が着た方が絶対似合うと思うけど…」 真田と荒垣が頬を染め口を開けていると、美鶴が自信満々に誇らしげに言い、玲がぼそぼそと呟いた。 玲は基本的に思ったことはすぐに言うが、その内容に嘘は無いので、その言葉を聞いた女性陣はアイギス以外顔を真っ赤にする。 「そっ、そんなこと…」 「誉めたって何も出ないよ!」 「お褒めに与り光栄であります」 「ま、まあ、ありがとうと言っておくか…」 女性陣はアイギス以外それぞれが頬を染め、しどろもどろになりながらもお礼を言う。 天田はコロマルと一緒に玲に歩み寄り、目を輝かせている。 相変わらず真田と荒垣は赤面硬直。 そんな3月3日、夕方学生寮のラウンジ。 終われ! またしてもワケの分からない話に…!! まとまりが無いですね… 主人公の取り合いとか書きたかったんですけどあまりに長くなってしまったのでカットしました… また別の機会に! 2012/3/3 [*前へ][次へ#] |