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幻想






ニーナの葬儀には村中の人が集まった。泣き崩れるニーナのお母さんを慰めてはいるけど、その顔には次は自分が危ないかもしれないといった不安の色が出ていた。
遺体のないニーナの墓には墓碑が置かれるだけだった。墓碑の下にその主が眠ることはない……。備えられた花の花弁が風に奪われていくのを僕は黙って見詰めていた。



僕がもっと早く帰っていればニーナは死ななかった。恐らくあの時聞こえた何かが割れるような音は犯人が部屋外にいる人の気配に気付いて窓から逃げていった音だろう。僕のせいだ。僕のせいでニーナは死んだ。まだあんなに幼かったのに……。

「もう日が暮れますよ」

背後から突然声が掛けられた。声は教会にいたあの男のものだったけれど、声が掛けられるまで全く男がいることに気付かなかった。

「早く帰った方がいい。奴が来る前に」

「奴?奴って何です?何か知ってるんですか!?」

男は飄々として僕に言う。極当たり前のように。それが一体何を示しているかは明らかだ。やはり男はこの事件を何か知ってるのだ。そして犯人でさえも……。
僕は縋る思いで男に詰め寄った。この男はニーナを殺した犯人を知っているのだ。僕はそれを突き止めなくちゃニーナのお母さんに、ニーナに合わせる顔がなかった。

「帰りなさい」

けれど男はただ簡潔にそれだけを告げた。強い眼差しだ。それは僕を抑圧する。でもここで引き下がる訳にはいかなかった。

「僕の、僕の過去に何か関係があるんですか。だから教えてくれないんですか。もしそうだったら、僕は絶対に聞かなきゃならない。教えて下さいっ、僕のことを、この事件のことを、どうしてニーナが殺されなくちゃいけなかったのか」

言っている内に熱いものがみるみる込み上げてきて、僕は男の服を掴んでいた。






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あきゅろす。
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