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幻想






「私に忠誠を誓うならここから連れ出してあげましょう」

そう言って闇の中から俺を連れ出してくれた男は今、いない……。







人形の唄







「トーマ、トーマ!トーマはこんなことしなくていいのに」

ワンピースを風に靡かせながらニーナが僕の下に駆けてくる。先程、川で洗ってきた布を干している僕の腰に巻き付いてきた。その軽い衝撃に心が温かくなるのを感じる。

「僕は居候の身だからね。こういうことぐらい、手伝わなきゃ」

笑顔を見せてもニーナはまだ不満そうだったけれど渋々と承諾してくれたようで黙って近場の椅子に腰を掛けた。

「ニーナのお母さんには本当に感謝しているんだよ。身元も分からない僕を住まわせてくれて……」

三日前、ニーナの母親は森の中で倒れている僕を助けて、自分の家で看病までしてくれた。僕は直ぐに意識を取り戻したのだけれど、それ以前の記憶が全くなかった。幸いにも言葉は通じ、その面で生活に支障を来すことはなかった。しかし、住んでいた場所も分からなかった僕をニーナの母親は快く迎え入れてくれたのだ。

「手伝えることは、手伝いたいんだよ」

笑みを浮かべて言うとニーナはやっと分かってくれ、微笑み返してくれた。そして自ら自分も手伝うと言い、僕の手から布を奪った。






平和だった。

ニーナがいて、ニーナの母親がいて。ニーナの母親の手伝いをしながら、質素だけど十分な暮らしが出来て………。






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あきゅろす。
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