幻想
17
「神那を救ってやってくれ」
おちゃらけた雰囲気はどこにもない。あるのは鋭いくらいの眼差しと肩を痛いくらいに掴む手。
「僕は……」
愁莉の中に何かが生まれた瞬間だった。何も分からずしてここに連れられてきた。帰りたいと幾度と願うも帰れず、絶望した。しかし神那と過ごす内に胸の中に生まれた温かい感情。
そして今、愁莉の胸には神那を助けたいと思う強い気持ちが生まれたのだった。
「龍神様を助けたい」
愁莉は不思議でならなかった。自分が信じられなかった。だが愁莉は決意を固め、拳を強く握り締めた。神登はそれを嬉々として見守っていた。だが神登の胸には一つのわだかまりがあった。
(変わるだろうか…。忌々しい鎖をこいつが…このわっぱが断ち切ってくれるのか…?)
神登は目の前の小さな存在に、自分の無力さを感じざるおえなかった。
神登が去って莉愁は一人、思案に暮れていた。神登が話してくれた内容は、愁莉にとって重すぎたのだ。先はつい気持ちのあるまま助けたいなどと言ってしまったが、改めて思うとことの重大さに気付かされた。
「……母様…」
愁莉は母のことを思った。龍神の巫女であった母親。母は一体どうしたのだろうか。
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