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幻想
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“我等は王の隷属。我等が王が絶対なのだ”

父の言葉が頭を過る。そうだ、父が言っていたのはこういうことだったのだ。
漸く、父の言っていた本当の意味を実感することができた。

私の告げた言葉に、ヨルダン様はこちらを振り向かれて目を見開かれた。
恐らく、私が今までの発言を撤回する言葉を吐くと思われたのだろう。ヨルダン様自身、そう促されていた。だが、事実私が発した言葉は、その真逆で。今までの言葉を繰り返すだけだった。

私を見詰めるその瞳が、再び哀愁に揺れたのを私は見逃さなかった。

「………昔、そう私に告げてきた者がいた」

ふいっと私から視線を反らし、寝台から立ち上がられたヨルダン様は、私に背を向けたまま呟かれた。

「その者は、もうこの世にはいないっ」

最後にそう呟かれ、ヨルダン様は部屋を辞された。
呟く、と言うよりも吐き捨てられたという表現の方が正しかった。
ヨルダン様の感情が凝縮されたその言葉は、一人寝台で横たわる私に深く突き刺さった。





翌日。
晴れた空の下、庭先で一人座り込み、思案に耽っていた。

ヨルダン様に抱かれるようになって、ラビィが今までになく私に対して気を遣うようになったのを感じる。今日だって、今は雑務でこの場を外しているが、時間が許す限り、ラビィは私の傍にいるようになった。傍で、私を慰めるような言葉を掛けるでもなく、ただじっと控えている。

と言うのも、ヨルダン様から性行為を強いられているからというだけでは無い。
ヨルダン様の夜の渡りが本格的になってきた頃から、私の下に不審な贈り物が届くようになったからだ。

一番最初に私の下に届けられたのは、鳥の死骸の入ったプレゼントだった。
次に届けられたのは、手紙の形をしたプレゼントで、中に刃物が入っていた。
三つ目に届けられたのは、新鮮そうな果実。流石に妖し過ぎて手を付けなかった。
どれも差出人不明で、この一連の嫌がらせの犯人は分からなかった。

だが、どうせ後宮にいる妾后の誰かである。…………エーリオからだとは、思いたくないが。

三つ目の届け物である果物は、手を付けずに後宮に在住する医師に届けられた。
そこで詳しく、成分を分析してもらった結果、毒物が混入されていることが分かった。
それが発覚したのが昨日の昼だった。
明らかに私を害そうとしている。

そういった経緯から、ラビィは常に私の傍に控えるようになった。
女性に守られることになるとは、自分がとても情けない。しかし、ラビィの気持ちを無下にすることもできない。
事件を知ったアルベルト殿から、私の侍女を増やすことを提案されたが、それはラビィが拒んだ。

「今、新たに侍女を増やすことは、敵を迎え入れることにも繋がります」

いつになく厳しい声色で告げたラビィに、アルベルト殿は仕方なしに了承したようだった。
アルベルト殿からすれば、最愛の妹の身に危険が少しでも及ばないよう出した案だったのだろうが、正直私もこれ以上侍女を増やすことは反対だった。
ラビィ一人であれば、何かあった時に私が守ってやることもできる。しかし、他にも侍女が増えるとなると、その全員を守ることは不可能だ。

―――もしかしたら、昨夜ヨルダン様が私に今までの発言の撤回を促されたのは、現状を思慮されてなのかもしれない。

今まで三日も同じ妾后に通えば良い方だと言われていた王が、一週間以上同じ妾后に通っている。しかも、その前も男の妾后の下に長期間通われていて、また今回も男の妾后相手なのだ。良い加減、痺れを切らして行動に移すものがいても不思議では無い。




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