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幻想
52






「一体、どうなさったのですか、ラウル様」

私の腫れた顔を心配そうな顔で見詰めるアルベルト殿。

「いえ、特に…問題は………」

「ありますよ。お顔が腫れておられます。早く、手当てをなさらないと……」

アルベルト殿がそう言っていると、手当ての用意を済ませたラビィがこの場へ戻って来た。
ラビィはアルベルト殿がやって来た瞬間にこの場から立ち去り、直ぐに私の手当ての用意をしてきてくれたらしい。私を椅子に座らせ、その横で手際良く手当てを始める。

「ラビィ、これくらい大丈夫だから」

仮にも騎士だったのだ。今までもっと大きな怪我もしたことがある。こんな打ち身、手当ての必要など本来無い。それなのにラビィは一心不乱に手当を続ける。

「いいえ、させて下さい……」

そんな消え入りそうな声で、手を震わせて手当を続けるラビィに、胸が締め付けられた。
ラビィの一挙手一投足に、彼女の思いが感じられた。
あの騒動の中、黙って私の側に付き添うことしかできなかったことをラビィはとても気にしているようだった。侍女であるが故に、私から離れることもできなかったラビィは、あの出来事を一番近くで見させられたのだ。巻き込んでしまったようで、本当に申し訳なく思う。

「……ありがとう」

それで少しでもラビィの気が晴れるのならばと、私は黙ってラビィの好きなようにさせることにした。

「それにしても、一体何があったのです?来る最中、此方から駆けて来られるエーリオ様にもお会いしましたが……」

手当てを受ける横で、アルベルト殿が尋ねてこられた。
しかし内容が内容だけに、例えアルベルト殿であっても言い辛いものがある。
男同士の痴情の縺れなど、言えたことではないし、他の妾后の振る舞いを糾弾するような真似も出来はしない。

「それは……」

「粗方手当が終わりました。さあ、ラウル様。早く、陛下の下へ行かないと」

私が言い淀んでいると、手当てを終わらせたラビィが助け舟を出してくれた。
まさかラビィから口を挟んでくるなんて、と内心驚きを隠せなかったが一生懸命に私に語りかけるラビィに、私は素直に従った。

アルベルト殿をその場に残し、私たちは陛下のおられる中央庭園へ急いだ。

「ラビィ、ありがとう」

中央庭園へ向かう途中、二重の意味を込めて告げた御礼に、ラビィは静かに一度頷いた。





私たちが着く頃には、私を除く全ての妾后たちが揃っていた。
あのエーリオさえも、泣き腫らした顔で列に並んでいる。
声を掛けようか悩んだが、そのまま列に加わることにした。

間もなく、ヨルダン様が姿を現された。

妾后たちの列の間を通り、上座へ座られたヨルダン様。
顔を上げることを許され、その御姿を拝見すると直ぐに視線が重なった。
私の顔とエーリオの顔を見て、ほんの一瞬笑みを浮かべられたのを私は見逃さなかった。
やはり、全てはヨルダン様の策略だったのだ。
思惑通り御自身の計画が上手くいったことを喜んでいらっしゃったのだ。





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あきゅろす。
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