[携帯モード] [URL送信]

幻想
47





昼になり、エーリオの部屋を再度訪れたがエーリオに会うことはできなかった。エーリオ付きの侍女に門前払いの形で、辞去させられることとなってしまったのだ。
結局、エーリオの誤解を解くことができずに、自室へと戻った。
実際に会ってもらえないならば、文を認めるしかないと机に向かう。後宮入りをしてから初めてペンを持つことになった。
どうすればエーリオに事情を正確に伝えることが、誤解を解くことができるのか。一つ一つ言葉を選びながらペンを走らせる。

文をしたため終えた後は、それをラビィに託した。私が直接届けても良かったが、門前払いの扱いを受けている私では、エーリオは受け取ってくれないかもしれない。手間をかけさせてしまうことになるが、ここはラビィに届けてもらうことにした。
この手紙で、エーリオの誤解が解けてくれることを願うばかりだ。

その夜も、ヨルダン様は私の部屋を尋ねられた。

「陛下………」

「私の顔を見て、そのような顔をするなど主くらいだろうな」

三夜に続く渡り。ヨルダン様は一体何をなさりたいのだろうか。
不服に思う気持ちが顔に出てしまっていたのだろう、私の顔を見てヨルダン様は第一声にそんなことをおっしゃられた。
不敬な私の態度に気を悪くされるでもなく、寧ろどこか楽しそうな感情をも窺えた。

「私には、このように何度も陛下に足を運んでいただく理由が分かりません。もっと他に陛下の来訪を心待ちにされている方々の下を尋ねられては如何でしょうか」

エーリオの下に、とは言えなかった。
昨夜にヨルダン様との会話で気付かされた、ヨルダン様を想う多くの存在。
エーリオ一人がヨルダン様の来訪を待っている訳ではないのだ。他の妾后方も等しくヨルダン様の来訪を心待ちにされているのだ。
私ではなく、他のヨルダン様を愛す方の下を尋ねていただきたい。

「理由……か…。理由があれば、構わないのか」

「それは……まあ……」

ヨルダン様の返しに、狼狽えてしまう。まさかそんな返しが戻ってくるとは思わなかった。

「理由ならば、ある」

まさか、ヨルダン様が私に何か用事があるとは。純粋にその言葉に驚いてしまった。
一体どのような内容かと好奇心に急く気持ちを抑え、ヨルダン様の続きの言葉を待つ。

「後宮の暮らしには慣れたか」

いつかの中庭でかけられた言葉と全く同じ問いだった。
脳裏にあの日の遣り取りが甦えさせられた。その問いに対する私の答えに、ヨルダン様は一言冷たい言葉を投げられた。
どういった意図でヨルダン様は再び、この問いを私に投げ掛けられたのだろう。
試されている……のだろうか。

「他の妾后は主によくしてくれているか」

私が答えに窮していると、ヨルダン様が別の問いを投げ掛けてこられた。
その内容に、思わず背筋が凍るような寒気が走った。

ヨルダン様の二つ目の問いに、私は漸く問いの意図を察した。
ヨルダン様は全てご存じなのだ。
私が現状、他の妾后方からどのような扱いを受けているのか。
後宮がどんな状態であるのか。
それを知っていながら、わざわざ私に尋ねてこられるということは、ヨルダン様が欲してらっしゃるのは、私の否定の言葉―――。

あの日、私に求められていたのも、否定の言葉だったのだ。







[前へ][次へ]

47/67ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!