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幻想
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エーリオの下へ釈明に行かなければ……。その思いが私の足を急がせる。
道中の好機の視線も気にならなかった。ただただ一心にエーリオのことを思った。

エーリオの居室は冷やりとした空気に包まれていた。いつも見ていた筈のいつも通りの筈の扉が、今日はやけに堅く閉ざされているような気がした。
そんな自分の考えを振り払い、兵に入室を求めるとすんなりと許された。やはり、ただの自分の思い込みであったのだ。

部屋の中は、日中であるにも関わらず薄暗く感じられた。

「………何しに来たの」

部屋の扉が閉められたと同時に、部屋の奥から重く冷たい声が掛けられた。
その鋭利なまでな冷淡な響きに、私はその場で身を竦ませた。
エーリオは、こちらに姿を見せることなく続けた。

「……僕を笑いに来たの?」

「エーリオ……」

いつもと様子の違うエーリオに困惑した。
あの太陽のように朗らかなエーリオからは想像が付かないほど、今の彼は陰鬱な空気を浮かべていた。

「エーリオ、聞いてくれ」

「うるさいっ!!誰がお前の言うことなんか!!どうせまた、僕を騙すつもりなんだ」

「騙すなんてそんな……」

エーリオの口から出た言葉に、私は強く打ちのめされた。
私はエーリオを騙したつもりなんて毛頭ない。昨日言ったことは事実であり、誠にヨルダン様と私の間に甘い関係などありはしない。昨夜だって、確かにヨルダン様が私の部屋に来られたのは事実だ。しかしそこにエーリオが思うようなことは少しもありはしない。
ただ、昨夜のヨルダン様との会話のやり取りをエーリオにそのまま話す訳にもいかないのが私の口を重くしていた。

「何もないのに、二日も続けて陛下が行く筈ないじゃないか……!僕に嘘を吐いていたんだろ!やっぱり、一昨日、二人の間に何かあったんじゃないか!」

「違う!!私と陛下は本当に何でもない!昨夜だって、やはり少し話をされた後、直ぐに帰られた」

私がはっきりとした弁解を述べなかったせいか、エーリオはすっかり誤解してしまっているようだった。どうにかその誤解を解かなければと、頭を回転させてエーリオを説得させる方法を考えた。しかし感情がすっかり爆発してしまっているエーリオには、私の言葉が届くことはなかった。

「真夜中に、二人で一体何の話をしているって言うんだ!別に話なんて、昼間だって出来る筈だ。それなのに、わざわざ夜中に部屋で二人っきりで話をするなんて……そんなの、睦言に決まっている!」

「む、睦言!?」

エーリオは自分が聞かされたような甘い睦言を、ヨルダン様が私に囁いているとでも言うのか。あのヨルダン様が、だぞ。後室に入ってからというもの、全くお呼びもなく、優しいお声掛けも無かった私に?そんなことは絶対にありえないだろう。
それに私はエーリオと違い、華奢な訳でもないし、少年の域を疾うに超えてしまっているのだぞ。そういった対象からは大きく外れているに決まっているだろう。
そんな冷静に見れば誰しも分かることだというのに、興奮しているエーリオには全く頭にないらしい。

「…………少し、落ち着いた方が良い。……また昼にでも伺おう」

これ以上話していても、意味がない。少しエーリオに冷静になってもらわなければ話にならない。
部屋の奥へ入ることもなく、私は扉先でそのままエーリオの部屋を後にした。




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あきゅろす。
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