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幻想
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「確かにアルベルト様の家に貰われるまでは、悲惨な生活状況でしたけど。けれど、アルベルト様の家に入ってからは、それは本当に良くして下さいました。アルベルト様は、まるで本当の兄のように、私に優しく接してくれました……。だから、私は幸せだったのです」

遠くを見て、恐らく過去を思い出しているのだろうラビィは、懐かしそうに顔を綻ばせている。しかしその中で、僅かな哀愁が漂っているのを私は見逃さなかった。

「そう言えば、ラウル様と私は末っ子同士なのですね」

もうここでこの話は終わりというように、話を逸らしたラビィに私は素直に従った。
これ以上は踏み込んではいけない領域。そう思えてならなかったからだ。






それから互いにやるべきこと、私は鍛錬でラビィは後宮の仕事だったが、をやって、食事を採ったりしていると、日は暮れていった。

ラビィは自分の居室に戻り、一人夜の時間を過ごしている私の下に、またもや訪問者が現れた。

「………陛下」

昨晩のような愚行は犯さなかった。部屋へ訪れた第三者の気配を敏感に察した私は、訪問者へ意識を向けた。夜の光の下、姿を現したのはヨルダン様だった。

「今日は利口だな」

「………本日は何用でいらっしゃられたのですか」

声を殺して尋ねる私に、ヨルダン様は些か不満といった様子で答えられた。

「用が無ければ来てはならない、と?」

昨夜と全く同じやり取り。しかしここからは違う。

「はい」

王に対し、この態度。不敬と見なされても不思議ではない。しかし、私には言わなければならないことがあった。

「陛下の気紛れな行動で、傷付くものがおります」

「………エーリオか。主はそればっかりだな」

呆れ口調で告げるヨルダン様に私の気持ちは爆発してしまった。

「陛下にとっては些細なことかもしれませんが、私にとっては友が憂いているのです!どうにかしようと思うのは不思議なことではない筈でしょう!陛下の行動一つで友が嘆くのを黙って見ていることはできないのです!」

「……主も変わっておる」

「どういうことでしょうか…?」

私の訴えを軽く往なし、ウンザリした様子で席に着くヨルダン様に私は続きを促す。

「王たる私が部屋を訪れているというのに、話す内容は別の人間のことばかり。他の妾后ならば、睦言の一つや二つ言っては、私に縋りついてくるものを。主くらいのものだ。他の妾后の下へ行けと暗に言ってくる者は」

「………私は陛下の他の妾后方の様にはなれません」

「フッ……なる必要もないだろう」

私のその言葉に息を溢すような小さな笑みを浮かべられた。





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