幻想
43
本当に陛下はもうエーリオのことを……。
悲しそうな顔をしているエーリオを見て、私はただ慰めることしかできなかった。
昨日の陛下との会話を伝える訳など、到底できる筈がなかった。
「きっと今晩は来てくれる筈さ」
「………うん……」
寂しそうに呟くエーリオに、悲愴感を抱かざるを得なかった。
その日はある主、定期的になった茶会へ参加する日だった。
しかし今日の後宮の状況的に行くのは得策ではないと判断し、部屋に籠ることにした。これにはラビィも大いに賛成し、普段は考えられないが、私の話し相手をしてくれた。
きっと私に気を遣ってくれているのだろう。
「……それでは、ラウル様は二人兄弟の次男だったのですね」
「ああ、そのお蔭で好き勝手やらせてもらっている。長男であれば、騎士になんて入れさせてもらえなかっただろうしね」
「でも、ラウル様には末っ子っぽさが全くありませんわ」
ラビィとこういう風に他愛もない話をしたことがあっただろうか。
今までになくラビィとの距離が縮まったような気がする。もしかしたら、今ならばラビィも自分のことを話してくれるだろうか。
「ラビィは、兄弟は?」
調子に乗って、そんな質問を投げ掛けてしまっていた。
以前アルベルト殿がラビィと兄弟と言っていた。しかしラビィはアルベルト殿との関係を兄弟とは称さなかった。今ならば、ラビィも言ってくれるのではないかと淡い期待を抱いたのだ。
「………兄が、います」
やはりこの話はあまり触れて欲しくないのか、突然言葉に流暢さが無くなった。何がこの話をタブーにさせているのだろうか。
ラビィを想うのならば聞いてやるべきことではなかった。しかしこれは絶好のチャンスとも言えた。私はそのチャンスを逃したくはなかった。ラビィをもっと深く知る為に。
「それって……アルベルト殿のことか?」
「何で、それを……!?………知っていたのですか…」
確かにラビィの口から直接聞いた訳ではないのだから、私が二人は兄弟だということを知っていてラビィが驚くのも無理はないかもしれない。ただそれにしても、何故そんなに苦しそうな顔をするのだろうか。
「確かに、アルベルト様は私の兄です。………血の繋がっていない、ですが」
ラビィの口から明かされた真実に、私は胸を抓まれた。何てことを私はラビィの口から言わせてしまったのだろうか。各家庭、色々な事情がある。聞かれたくないことだったろうに。
「すまない、ラビィ、私は……」
「そんな、ラウル様が謝ることなど何も……!それに、ラウル様が思っているような壮絶な家庭事情という訳ではないんです」
「………それは?」
止せば良いのに、ここでまた私はラビィに続きを促してしまっていた。
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